合流は会場で
…何だ?
竜崎雪の声が聞こえたことで今も借りたままの精霊に視線を向けてみるとすぐに用件を告げてきた。
「米倉宗一郎さんがみなさんにお話ししたいそうなんですけど…良いですか?」
向こうからはこちらの様子が見えないからだろう。
控えめに問いかけてきた竜崎雪だが、
今のところ断る理由は特にない。
「話を聞かせてもらおう。」
「あ、はい。それでは代わりますね。」
話し合いに応じたことで、
竜崎雪は手元の精霊を米倉宗一郎に手渡したようだった。
「ふむ。まずは挨拶から…と言いたいところだが、もうすでにあまり時間もないからな。手短にいこうか。」
「ああ、頼む。」
「うむ。ひとまず一通りの段取りが終わったわけだが、そっちはどうだ?」
「特に問題はない。」
水晶玉を通して確認してみても。
優奈に調査を頼んでも。
特に異変は見られなかった。
「御堂もすでに離れているようだな。」
「ああ、もちろんだ。彼には一足先に会場に向かってもらっている。だからこそ、こうしてきみと話ができるわけだが…どうする?例の準備も整っているが、一度合流するか?」
…ああ、そうだな。
「時間的に考えてもあまり遠回りしている暇はないだろうな。」
「ならば合流は会場で、だな?」
「ああ、そうしよう。御堂達に気づかれないように密かに潜入する。」
「分かった。では、そちらの準備が整い次第、また連絡をくれ。」
「分かった。」
「うむ、ではまた後程な。」
短い打ち合わせをしてから通信を終える。
竜崎雪の精霊を本人に返してから次の準備へと動き出す宗一郎の姿を確認したことで、
ついに俺達も動き出す時間が来た。
「俺達も行くぞ。まずは検定会場に潜入する。」
「ねえねえ、兄貴。移動するのは良いんだけど、米倉元代表が言ってた例の準備って何なの?」
………。
最初の目的を告げたところで薫が訊ねてきたのだが、
今はまだ答えられる段階ではないからな。
…実物を確認してから伝えるべきだろう。
それまでは黙っておくことにした。
「向こうに行けば全て分かる。」
「うわぁ~。ま~た何か企んでるのね~。」
何か言いたそうな表情を見せているが、
無理に追求せずに楽しそうに笑いながら俺のあとについてくる。
「もう疑問がありすぎて何から追求すればいいのか分からないけど、これはこれで楽しみが増えて面白いからとりあえずは聞かないわ。」
答えを急がずに楽しみに待つ。
そんなふうに気持ちを切り替える薫のおかげだろうか。
「まあ、天城君らしいわね。」
「ええ、そうですね。私もそう思います。」
美春も優奈も追求を断念してくれたようだ。
「まあ、行けば分かるのならそれで良いんじゃない?」
「はい。そうですね。」
気楽に話す美春に続いて、
優奈も笑顔を見せながらしっかりと頷いていた。




