思っていた以上に
「…え~っと、こんな感じでどうでしょうか?」
治療を終えて魔術を解除した美春が、
自分を観察する琴平重郎に問いかける。
「ダメ…ですか?」
「いやいやいやいや、ダメだなんてとんでもない。」
不安を感じながら訊ねる美春だが、
琴平重郎は慌てて首を左右に振っていた。
「予想以上です!まさかここまでできるとは、正直思ってもいませんでした。」
今はまだ眠りについている鎌田達だが、
水晶玉を通して確認しているだけの俺でさえ自信をもって断言できるほど完璧に近い状態に完治しているように感じる。
…強いて問題点をあげるなら、鎌田達がすぐに目覚めないという部分だが。
強制的な治療による体への付加が軽減できていないために眠りから目覚めていないのが唯一の欠点と言えるだろうか。
その辺りの加減は何度か魔術を調整すればすぐに修正できるはずだが、
今の状況なら鎌田達は目覚めないほうがいいのも事実だ。
…今ここで騒がれれば御堂に情報が漏れる可能性があるからな。
あるいはその可能性をみこして、
わざと昏倒させ続けているという可能性も否定できない。
…どうだろうな?
鎌田達を瀕死の状態に追い込んだのが誰なのか?
その答えに美春が気づいている可能性は十分にあり得る。
…宗一郎の情報と俺の存在を考えれば。
美春が犯人を特定していても不思議ではないだろう。
…だとすれば鎌田達が目覚めないのはわざとか?
もしもそうなら美春はすでに今回の魔術を完璧に扱えることになる。
怪我の治療はしても目覚めさせない。
それが美春の考えだとすると。
…俺が思っていた以上に美春は成長しているのかもしれないな。
魔術師としてもそうだが、
推理力や判断力も大きく成長しているようだ。
…随分と変わったな。
初めて出会ったときと比べて大きく成長しているように思う。
…これも翔子の影響か?
おそらくそうだと思いながら美春の様子を眺めていると。
「………。」
不意に美春が微笑みを見せた。
…さすがだな。
監視している優奈の方角を見抜いて視線をあわせてきた美春のさりげない行動だけで全てを見抜いていることが感じられる瞬間だった。
「良い瞳だ。」
「…あ~あ。」
「………。」
…何だ?
美春を褒めただけなのだが、
なぜか薫も優奈も不満そうな表情を見せながら深々とため息を吐いていた。




