戦争の経験
「始めます。」
意識を失っている5人の生徒達の姿を一通り眺めてから展開する魔術。
数多くの生徒の中から選ばれた鎌田や渋沢を含む最も重度の怪我を負っている5人の生徒に対して、
美春は迷うことなく魔術を展開した。
「リヴァイブ!!」
魔術の発動と同時に美春の手のひらから飛び出す5つの光。
鮮やかな彩りを見せて煌めく5つの光は、
それぞれの生徒の体に降り注いで鎌田達の体を優しく包み込んでいった。
…良い魔術だ。
魔術構成に歪みはない。
…沙織と同等かそれ以上か?
常磐成美も使えるようになった『あの魔術』よりもさらに高度な回復魔術に思えた。
…これが戦争の経験か。
美春の魔術理論は知識ではなくて蓄積された経験による技術だ。
それは理論的な能力ではなくて直感的な判断力ともいえる。
…これが美春の力か。
俺や沙織とは異なる魔術構成。
美春の魔術は知識や計算を積み重ねた理論的な魔術ではなくて、
経験と直感を組み合わせた独自の魔術だった。
…これを模倣するのは難しいだろうな。
言葉で説明できない直感を模倣するのは簡単ではないからだ。
だからだろう。
「これはこれは…」
琴平重郎も驚きを隠せないでいた。
「とても初心者の魔術とは思えませんね。」
医師としての技術を学んでいない美春の魔術を見ておどろいている。
そしてその瞳には美春に対する称賛の色さえ漂わせていた。
「是非とも当学園に引き抜きたいほどの逸材ですよ。」
薫に匹敵するほどの実力を示す美春に関心をよせる琴平重郎だが、
当の美春は苦笑いを浮かべている。
「このくらいなら…という言い方が正しいかどうかわかりませんが、こういう状況は沢山経験してきましたから…。」
戦争という舞台で数多くの怪我人を見てきた美春は、
学園や病院で学ぶ以上の数多くの悲しみに触れて数えきれないほどの怪我人をその手で救ってきたようだな。
数千数万にも及ぶ確かな努力。
それらが美春の経験を大幅に上昇させていた。
…どう考えても学園で学べる程度の経験ではないだろうな。
地獄と呼ぶべき戦場で培った経験は並みの魔術医師を大きく上回るだろう。
そのおかげで知識の浅い美春の感覚を強制的に向上させていた。
…薫と共に行動したことも成長の要因だろうか。
薫から聞き取る知識とあらゆる症状に対する対処法。
限りある魔力での最善の魔術構成も重要となり。
終わらない治療と追い込まれる精神。
それらが複雑に絡み合う中で、
美春の治癒能力は沙織を越えたのかもしれない。
…文字通り、命がけで手にいれた才能だな。
戦場で培った技術によって急速に成長した美春が発動した魔術は、
瀕死の重症を負っていた鎌田達の体を瞬く間に癒していった。




