あまりの残酷さに
「さて、ひとまず先に説明をしておこうか。」
御堂とも関わりのある鎌田がここにいる理由。
そして患者の一人として意識を失った状態でここへ連れてこられた理由。
それら一連の流れを説明するために。
宗一郎が美春と御堂に説明を始めた。
「ここに連れてきた5人の患者だが、彼等は一時的に解除された結界の隙をついて生徒指導室から逃走しようとしたところを迎撃したために現在はこういう状態にある。」
………。
はっきり言えば俺の個人的な理由によって学園の全ての機能が停止したために生徒指導室から逃走しようとしたわけだが、
その逃走を俺が阻止したために重症を負って倒れたことになる。
…まあ、このまま放っておけば二度と目覚めない可能性のほうが高いだろうな。
だからこそ鎌田達の治療を美春に任せようというのが魔術医師としての試験のようだ。
「きみ達はジェノスを離れていたために知らないだろうが、魔術研究所からの依頼で昨晩だけ学園の全機能が停止したらしい。その異変に気づいて逃走を試みた彼等を黒柳が派遣した魔術師が撃退したことで瀕死の重症を負ったのだが、さすがにこれほどの怪我を治療できる人材が学園にはいないものでな。まあ、重郎の手を借りればそれまでなのだが、せっかくだから鈴置君の実力の調査をかねてこの場で彼らの治療をしてしまおうと思うのだが…どうだろうか?」
「………。」
見た目だけでもすでに瀕死の状況。
全身に及ぶ火傷の痕や数えきれないほどの裂傷による皮膚の壊死。
本来の人の形というべき原型さえも崩れかけている手足の骨折など。
意識を失うほどの重体を眺める美春はあまりの残酷さに目を向けることさえ躊躇っていた。
「そ、その…。誰がどうして…とか言う以前に、ここまでする必要があったんですか?さすがにこれはちょっと、どころか…すごくやり過ぎな気が…?」
………。
鎌田達を瀕死に追い込んだのが誰なのかをまだ知らない美春が困った表情を浮かべている。
だが、かつて自らの手で鎌田を生徒指導室に送り込んだ御堂だけは、
惨劇とも呼ぶべき鎌田の現状を見ても批判できない様子だった。
「まあ、僕も人のことは言えないかな…。彼らに関してはまあ、仕方がないのかも…。」
「…こんな馬鹿は死んでも誰も文句は言わないわ!」
御堂でさえも仕方がないと感じる状況で、
百花だけは明らかな敵意をむき出しにしながら渋沢東吾を睨み付けていた。
「誰がやったかに関係なく、私がその場にいれば全く同じことをしたでしょうね。」
「「「「「………。」」」」」
渋沢を嫌う百花の発言によって重苦しい空気が室内に漂い始めるが、
その不穏な雰囲気を打破するために再び宗一郎が話し出す。
「まあ、それぞれに意見はあると思うが、ひとまず彼らの治療は鈴置君に任せる。どこまで出来るか分からないが、その結果ときみの実力を総合的に判断して重郎に評価してもらうつもりだ。」
鎌田達の治療が成功するかどうか?
その結果と美春の医師としての能力を考慮して、
魔術医師としての評価を下すようだな。
「さあ、きみの力ときみの心を見せてもらおう。」
一つ目の試験内容を告げる宗一郎が美春の背中を後押しする。
「きみの想いを示すのだ。」
医師としての実力。
そして美春の才能を評価するために。
宗一郎は試験の開始を宣言した。




