小さな庭園
時刻は午後1時10分頃だろうか。
美春の試験まで残り1時間を切ったところで、
研究所から近場にある小さな庭園へと移動した。
「この辺りなら校舎からも遠いし、寮も遠いから誰かに遭遇する危険は少ないと思うわ。」
…ああ、どうやらそのようだな。
自信をもって宣言する美春の言葉通り、
この付近一帯に知り合いがいる気配はない。
…と言うよりも。
誰もいないと言ったほうが正しいかもしれないな。
「学園って、こういうところもあるんですね。」
「ええ、そうよ。あまり自慢できることじゃないけど。学園内のことなら結構詳しく知ってるわ。」
俺と同様に初めて訪れた様子の優奈が庭園を見回していると、
美春は苦笑しながら説明していた。
「救急班として学園中を走破してるから、こういう穴場は色々と知ってるのよ。」
…ああ、なるほどな。
入学してから数週間しかいなかった俺や優奈とは違って、
美春は長年の経験によって学園の隅々を知っているようだ。
その知識の量は歴然で、
俺達の知らないことはまだまだ沢山あるのかもしれないな。
「まあ、そんなことはどうでもいいんだけどね。」
他には誰もいない庭園で日当たりの良い場所を選ぶ美春が両手に抱えていた荷物を下ろしてから手早く何かの準備を進めていく。
その様子を眺めていると。
美春の周囲には数々の料理が綺麗に並べられていった。
「すご~い!」
「良い手際ね~」
確かに非の打ちどころのない手際だったと思う。
「凄いです!美春先輩ってお料理が得意なんですか?」
「う~ん…。得意って言うほどでもないけど、何となくやることがなくて暇だったから適当に作っただけよ。」
感動と呼べるほど驚く優奈だったが、
照れ笑いを見せる美春は暇潰しだと答えていた。
「うわぁ。暇つぶしでこれは愛里以上ね…。」
食べる前から感心する薫の表情を見る限り、
あまり料理は得意ではないのかもしれないな。
…優奈の実力は知っているが。
反乱軍の砦で世話になっていたこともあって優奈の料理は何度も食べていたのだが、
薫の実力はまだ知らずにいる。
…基本的に優奈は何でもできるようだが。
それでも美春には負けるのだろう。
本人の表情を見ればそれは理解できる。
…だが。
おそらく薫は料理が一切できないのだろうな。
もしくは全く経験がないという感じだろうか。
…徹に頼っていたか、愛里が担当していたか。
どちらかの理由によって薫は料理の経験がないのかもしれない。
…俺もあまり得意ではないが。
俺が知る範囲で言えば、美春が最も優秀な部類になるだろう。
「得意分野があるのは良いことだな。」
「…あんまり期待されると困るけどね。」
あまり褒められ慣れていないのだろうか。
美春は恥ずかしそうに笑ってごまかしていた。
「これくらいは普通よ、普通。」
「…私には真似できそうにないです。」
曖昧に答える美春だが、
優奈は即座に否定している。
確かにこれが普通なら、
多くの者達が普通以下ということになってしまうだろう。
「まあ、私なんて足元にも及ばないけどね~。」
薫は素直に敗北を認めていた。
もちろん俺も論外だが、
優奈と薫は驚きながらも腰を下ろして料理と向き合っている。
「美春先輩の手料理っ♪」
「う~ん。愛里にも見せてあげたいわね、これは…。」
喜ぶ優奈と並ぶ薫もどことなく嬉しそうだ。
美味い食事が味わえる喜びは生きていくうえで大事なことだからな。
二人の気持ちは俺にも理解できる。
「と、とりあえず天城君も座ったら?」
「ああ。」
照れ臭そうな表情であせる美春に誘われて4人で料理の山を囲む。
そうして昼食を始めようとしたのだが。
「あ、味は期待しないでね。」
美春は真っ先にいいわけをしようとしていた。
「ごく普通の家庭料理だから…。」
「え?うわっ!これ美味しすぎっ!!塩加減が絶妙っ!」
期待され過ぎても困ると言いたげな美春だったが、
我慢しきれずに料理を食べ始めた薫がおにぎりを片手にはしゃぎ出す。
「この卵焼きも中がトロトロで最っ高!」
「本当ですねっ♪こんなに美味しい卵焼きは初めてです!」
薫に勧められて味わう卵焼きに優奈も満足している。
そんな二人の言葉に遮られて、
いいわけをする隙を逃したのだろう。
「ま、まあ、喜んでくれるなら…それで良いんだけどね。」
美晴は今まで以上に照れ臭そうな表情でうつむいてしまっていた。




