ただ一つずつ
…ふぅ。
どうにか目的を果たすことが出来たが、
思っていたより時間がかかってしまったな。
「迷惑をかけてすまない。」
「ははははっ!!気にするな。今回もきみのお陰でまた一人、生きる希望を持てたのだ。それなのに不満などあるはずがないだろう?」
ただでさえ忙しい状況で時間をとらせてしまったことを謝罪したのだが、
黒柳は笑顔で笑い飛ばしてくれた。
「きみの行動は尊敬に値する。少なくとも俺や宗一郎さんでは出来なかったことを実行して見せたのだからな。」
…それはそうかもしれないが。
「その結果としてどうなるのかはまだわからない。」
「いや、心配せずとも、きみの予想通りになるだろう。その程度の推測は俺にもできる。」
「…だと良いんだがな。」
「ははっ。きみは本当に底の知れない男だな。一体どれだけの出来事を想定して、どれほどの奇跡を起こすつもりでいるんだ?」
………。
随分と期待してくれているようだが、
それほど大きなことを考えているつもりはない。
「ただ一つずつ、やるべきことを進めているだけだ。」
「そのやるべきことがどこまでなのかという部分に興味があるのだがな。」
「…大したことじゃない。」
それに話し合うのは嫌いじゃないが、
いつまでもここにいるわけにはいかないからな。
「そろそろ次に向かう時間だ。あまり黒柳の邪魔をするわけにはいかないからな。」
「俺のことは良いんだが…。まあ、きみのためにやらなければならないこともあるからな。あまり引き留められるほどの余裕がないのも事実か…。」
「すまない。」
「いやいや、気にするな。その努力に見合った報酬はすでにもらっている。」
それは五十鈴菜々子を立ち直らせたことだろうか?
どうやら今回の行動も報酬の一部だと判断してくれるようだった。
「会場の件に関しては任せておいてくれ。時間までには必ず準備を整えておく。」
「ああ、頼む。」
「うむ。任せてくれ。」
短い挨拶を終えて俺達の前から立ち去っていく。
そうして再びルーン研究所に向かう黒柳を見送ったあとで、
俺達も研究所を出ることにした。




