白衣を纏う一人の女
「え…っと。みせかけ…って、どういうことなの?」
そもそも兵器を知らないからだろうか。
美春は戸惑っている様子だった。
「…う~ん。本物なのに、本物じゃないの?」
どうやら薫も困惑しているようだな。
それでも黒柳だけは微笑みを見せていた。
「さすがだな、天城君。やはりきみの目は誤魔化せないか。」
どうやら俺の指摘は正しかったようだ。
「きみの推測通り、ここにある兵器は実物であっても見せかけにすぎない。」
…だろうな。
兵器そのものは本物であることに間違いないが、
ここにある兵器には破壊を巻き起こす力がないということだ。
「やはりそうなんだな。」
俺と優奈が感じる違和感の意味が明らかになった。
そのせいで見せかけだけの兵器に対しての興味が徐々に薄れれようとしていたのだが。
「全然、話が理解できないんだけど?」
「………。」
ぼやく薫と首をかしげる美春は俺に視線を向けてくる。
「ちゃんと説明してほしいんだけど?」
「うんうん。」
問いかける薫に何度も頷いて同調する美春。
そんな二人に対して俺と優奈が答えるよりも先に、
一人の女が薫の問いに答えようとしていた。
「ここには『力』がないからよ。」
「…えっ?」
突然話しかけられたことで戸惑う薫が視線をさ迷わせる間に、
白衣を纏う一人の女が二人の男を引き連れながら俺達に歩み寄ってきた。
「久しぶりね。あまり話をした覚えはないけど見覚えはあるわ。まあ、貴女達が私を覚えてるかどうかは知らないけど…ね。」
…この女か。
俺としてはこうして会うのは初めてになる。
「まあ、知らない人もいるようだけど…。まさかこんなところにまで学園の生徒が入り込んでくるなんて、一体どういう管理体制なのか少し聞いてみたいところよね?」
「「「「「………。」」」」」
責任者である黒柳を批判する女の発言によって少し張り詰めた空気が周囲に漂い始めたのだが、
当の黒柳は冷たい視線を受けながらも飄々とした態度で笑顔を見せていた。
「…ふっ。ははははっ!!」
…黒柳。
俺と目の前に立ち塞がる女の関係。
その事実を考えれば黒柳の態度も理解できなくはない。
優奈や薫達がどう思うかは別としても、
俺も気分的には黒柳と同様だったからだ。
…どうやらまだ気づいていないようだな。
俺の存在と俺の名前。
そしてアストリア王国での出来事。
それらに連なる事実にまだ気づいていないようだった。
…もちろん笑い事ではないが。
今ここで目の前に立っている俺がアストリア王都を壊滅に追い込んだ犯人であり、
32の兵器を暴走させた人物であることに気づいていないのだ。
…まあ、お互いに初対面だからな。
五十鈴菜々子はまだ俺がアストリアを滅亡に追い込んだ事実に気がついていない。
だからこそ平然と俺の前に姿を現すことができている。
そしてその事実に気付かずに俺を部外者だと思っている五十鈴菜々子の発言があまりにも的はずれなために黒柳は笑いだしたのだ。
…あまり褒められた行動ではないがな。
不謹慎と言われれば否定できないだろう。
…だが、だからこそ黒柳らしいと言えるのかもしれないな。
どんな状況でも笑い飛ばせるだけの度量のある男だからこそ、
最も責任のある立場を任せられているのだと思う。
…とは言え。
このあとのことを考えれば止めておくべきだろう。
五十鈴菜々子と険悪な関係になるのはあまり好ましい展開ではないからな。
少なくとも今日だけは話し合えるだけの友好関係を維持しなければならない。
「黒柳…。気持ちは分からないでもないが、あまり褒められる行動ではないだろう?」
「あ、ああ、すまない。つい…な。」
たしなめるように話かけたことで、
黒柳は即座に気持ちを切り替えてからまっすぐに五十鈴菜々子と向き合った。
「すまない。決して悪意があるわけではないのだが、きみがまだ何も知らない様子だったからな。ついつい気が緩んでしまったんだ。」
おとなしく頭を下げて謝罪してから再び五十鈴菜々子と向き合った時には、
すでに黒柳の表情は所長としての威厳を取り戻していた。
「少し順番が狂ってしまったが、まずは説明しておこう。」
「………。」
真面目な表情で五十鈴菜々子と向き合う。
その直後に重苦しい雰囲気を感じた五十鈴菜々子が沈黙して、
背後にしたがう二人の男達も耳を傾ける状況の中で黒柳が真実を語り始めた。




