最低限のけじめ
「ひとまず今後を楽しみにしておくが、別れる前に一つだけ聞いてもいいか?」
「…あ?何だ?」
どうやら引き留められるとは思っていなかったようだな。
俺から話しかけたことで戸惑いの表情を見せていたが、
最後に一つだけ長野淳弥の考えを聞いてみることにした。
「大したことではないが、お前自身はこれからどうするつもりなんだ?わざわざ試験を受けるからには今後のことも少しは考えているんだろう?」
「ああ、そのことか。まだ誰にも話してないが、一度レーヴァに行こうと考えている。」
…なるほどな。
レーヴァに行くと聞けただけで、
おおよその事情は予想できた。
「懺悔のつもりか?」
「いや、そんな大層な理由じゃないが、最低限のけじめって感じだな。」
…そうか。
「お前らしい判断だな。」
「多分、姉貴にもそう言われると思うけどな。でもまあ、どっちにしても御堂の移住は決定してるわけだからな。御堂が行くなら俺もいくしかないだろ。」
「…上手く受け入れてもらえれば良いな。」
「どうだろうな。まあ、どういう結果でもいいんだけどな。」
…そうか。
本人がそういうのなら俺が言うべきことは何もない。
上手く話がまとまるように健闘を祈るのみだ。
「話し合いは以上だな?」
話を終えた長野敦也が今度こそ俺の前から立ち去るためにじわじわと後退していく。
「正直に言って、のんびりと話してられるほど余裕がある状況じゃないんだ。」
…だろうな。
間もなく竜崎達が学園に到着するからだ。
姉の接近に危機感を感じている長野敦也は急いでこの場から撤退しようとしていた。
「それに場合によっては当分の間、行動不能に陥るかもしれないからな。御堂とお前の決戦を見届けることはできないかもしれないが…。まあ、結果のわかりきった試合を観戦する必要はないだろ。」
…それはどうだろうな。
長野敦也の発言には幾つも指摘する点があるが、
わざわざ否定する必要はないだろう。
「全てが終わったあとでなら救済くらいはしてやろう。」
「…いや、必要ない。お前の手を借りるつもりはないからな。」
「そうか。まあ、無理にとは言わないがな。」
「ああ、俺の治療は必要ない。だからこれから何があっても余計な手出しはするなよ。」
「ああ、いいだろう。」
「良し、分かればいい。お前とはここでお別れだ。」
「そうだな。いつの日にか、また会おう。」
「ああ、それじゃあな。」
互いに挨拶を終えて話し合うことがなくなったことで、
長野敦也は現れた時と同様に俊敏な動きで俺達の前から去っていった。




