そうせざるを得ない
「まあ、俺のことは後回しにして、さっそくだが今後の予定に関して話を始めようか。」
再会の挨拶もほどほどにこれからの行動に関して話を進めようとする宗一郎だが、
その前にこれまでの出来事に関して幾つか質問をしておこうと思う。
「話を進める前に少し確認しておきたいんだが、良いか?」
「ははははっ! 分かっているとも。まずはきみが知りたいであろう出来事を順番に説明しておこう。」
問いかける前に察してくれたらしい。
宗一郎は考えるそぶりも見せずに話を聞かせてくれた。
「まず最初に最も気にしているであろう部分だが、御堂君は最後の試験を受けることを進言してきた。」
「それは自らの意思なのか?」
「おそらくそうだろうな。まあ、彼を取り巻く環境上『そうせざるを得ない』というのが本音だったかもしれないが。」
…だろうな。
結果的に自らの意思で受け入れたとはいえ、
共和国の代表としての立場を余儀なくされたことで学園にとどまることが許されなくなったからだ。
それが御堂に決断を促す一つの要因だったかもしれないと考えている理由になる。
「自分を取り巻く環境や時代の流れによって選ばされた可能性は十分にある。それが彼にとって良いか悪いかを考えるのは難しいところだがな。」
…かもしれないな。
宗一郎が不安に思う気持ちも理解できるが、
例え他の要因があったとしても自分が進むべき道を選ぶのは自らの意思だ。
「周りがどう思うかに関係なく、御堂は今の環境を言い訳にすることはないだろう。」
「それはもちろん分かっている。だが、言い訳をしないという時点ですでに彼に無理をさせているような気もするのだ。」
「御堂を心配しているのか?」
「もちろんだ。彼はきみと違って、周りの考えに流されてしまう部分があるからな。」
…ああ、そうだな。
迷いや悩みを割りきって乗り越えるのではなく、
それら全てを一人で背負い込もうとする御堂は他の誰よりも過酷な道を選ぶ傾向にある。
「例えいばらの道を選ぶことでさえ、御堂が自ら決断することだ。」
「…いばらの道か。きみはどう思う?これから彼が進む道は…。」
御堂にとって幸か不幸か?
先の見えない未来においてどんな結末を手にするのか?
その答えは俺や宗一郎が勝手に結論を出すべきことではないと思う。
「御堂が自らの人生で示すことだ。その答えに関して俺達が関与する必要はない。」
御堂の人生は御堂自身に委ねなければ意味がないからな。
あらゆる可能性を考慮して行動する。
そして御堂が自らの意思で選んだ道の先に、
また新たな可能性を考慮する。
そうやって俺はここまで来た。
「俺達はただ御堂の可能性を広げるだけだ。それだけでいい。」
ただ一つの道を定めて御堂を導いてきたわけじゃない。
今日この日まで手掛けてきた計画は全て御堂の可能性を広げて御堂の想いを叶えるためにある。
だからいついかなる時も進むべき道筋を決めるのは御堂自身であり、
俺は御堂の背中を後押ししているだけにすぎない。
「御堂は自らの意思で進むべき道を定めている。そのことを俺は知っている。」
戦争に参加することも。
魔術大会で戦うことも。
全ては御堂自身の意思で決められていたからだ。
「周りの意見によって心に迷いを抱えることはあっても、その中でも選ぶ選択肢がある。一切迷いのない人間なんて世界中のどこにもいないからな。」
御堂だけでなくて俺や優奈にも迷いはある。
だがだからこそ、
その先へと歩み出すことができる。
「御堂の心配をするのは勝手だが、必要以上に干渉するべきではないと俺は思う。」
「…ははっ。なるほどな。きみはそういう人間だったな。余計な手出しをせずに様子を見る。それがきみのやり方だったな。」
「不満か?」
「いや、それで良いだろう。いつもいつも俺達が手をさしのべられるわけじゃないからな。」
…ああ、その通りだ。
24時間。
365日。
ずっと御堂の悩みに手をさしのべられるわけじゃない。
だからこそ遠くから見守ることも必要だと宗一郎も認めてくれた。
「俺の心配は余計なお世話だったな。俺ももう少し御堂君を信じて様子を見ることにしよう。」
御堂の選択に関してこれ以上は言及しない。
その方針を定めた宗一郎はようやく説明を再開してくれた。




