きみ達は俺の
まずは理事長室の扉を叩く。
そしてゆっくりと理事長室の扉を開いた。
「すまない。待たせたようだな。」
理事長室の内部にいたのは米倉宗一郎と薫の二人だけだ。
こうしてここで再会することはすでにグランパレスで話し合っていたのだが、
実際に集まってみると予定よりも少し時間がかかったと思う。
「遅くなったが、今からでもいいか?」
「もちろんだ。きみが来るのを待っていたのだからな。」
遅れたことを謝罪してから問いかけてみると、
宗一郎は快く俺と優奈を受け入れてくれた。
「まあ、多少の誤差は起こりえるものだ。気にするほどのことはない。」
…ああ、そうだな。
何もかもが予想通りに動くわけじゃないからな。
御堂達を回避するために余分な遠回りを強いられることもある。
…それはそれとして、だ。
「思っていた以上に体調が良さそうだな。」
「ああ、きみ達のおかげで健康そのものだ。」
二日ほど前に話をした時よりも健康的に見えたことで問いかけてみると、
宗一郎は先程よりもより一層楽しそうな表情で満面の笑顔を見せてくれた。
「病から解放されただけでここまで体調が良くなるとは思っていなかったのだが、実際に病がなくなってみると想像していた以上に体が自由に動く気がするものだな。」
…それはなによりだ。
そう言ってもらえると、
俺達も努力した甲斐があると思えるからな。
「今までは歳のせいだと思う部分もあったのだが、それが思い込みだったと感じるほど好調なのは確かだ。」
「…そうか。それなら引退はまだまだ当分先の話だな。」
「ははははっ!!その辺りはどうなるか分からないが、年齢を理由に引退するのは難しくなったかもしれんな。」
不治の病から解放されて体の自由を取り戻したのがよほど嬉しかったのだろう。
無邪気とも言える笑顔を浮かべながらゆっくりと俺達を見回していった。
「きみ達には本当に感謝している。それだけは覚えていてほしい。」
「「あ、あははは…。」」
自らの立場や地位を気にせずに深々と頭を下げる。
そんな真摯な態度を示す宗一郎を見て、
優奈と薫は照れているような困っているような複雑な表情を見せて乾いた声で笑っていた。
「あまりお礼を言われると照れ臭いかも…。」
「そもそも私は何もしてませんから…。」
恥ずかしそうに苦笑する薫に続いて、
優奈は申し訳なさそうに頭を下げていた。
「お礼は総魔さんに…。」
「いや、感謝すべきはきみ達全員に対してだ。誰か一人でも欠けていれば今のこの状況は有り得なかったのだからな。だから特定の誰かではなくて、きみ達3人に対して感謝の言葉を言わせてほしい。」
控え目な態度で俺に視線を向けた優奈だが、
宗一郎は俺達3人に対して分け隔てなく感謝の想いを伝えようとしていた。
「ありがとう。きみ達は俺の命の恩人だ。」
精一杯の笑顔で言葉にする想い。
そのまっすぐな想いはしっかりと俺達の心に届いた。




