あとはもう
優奈や御堂や宗一郎などの主要な人物が着々と学園に集まりつつある最中で、
正面に座る黒柳が一度だけ咳ばらいをしてから机の上に広げている書類に視線を戻した。
「さて、そろそろ動き出さなければならない時間も迫ってきている頃だ。お互いにあまりのんびりとはしていられないからな。早々に議論を終えてしまおう。」
深夜の実験に関する最終的な議論を突き詰めること。
そのためにここにいることを改めて言葉にした黒柳は近くにある時計に視線を向けてから軽くあごをさすった。
「なんだかんだでもうすぐ9時だ…。一晩中眠らずに活動しているということもあるが、きみが戻ってきてから驚くほどあっという間に時間が過ぎ去っていくな。」
…かもしれないな。
疲労困憊と呼ぶべき表情で深くため息を吐く黒柳。
疲れが見える黒柳の姿からはいつものような余裕が全く感じられなかった。
「そろそろ体力の限界か?」
「ははははっ。まあ、そうだな。正直に言ってあまり無理は出来ないだろうが、ここまでくればあとはもうきみ達の命運を見守るだけだからな。今日一日くらいはなんとでもなるはずだ。」
「迷惑ばかりかけてすまない。」
「いや、良いんだ。きみと共に過ごせる時間はあまり多くはないからな。だからこそ貴重な一時を精一杯活用させてもらうつもりでいる。」
「すまない。感謝する。」
「良いんだ、気にするな。今はそれよりも俺達に出来ることを順番に進めていこう。」
疲れた体で精一杯の笑顔を浮かべてくれる黒柳。
その確かな優しさを感じながら、
今回の魔術に関する基礎理論を改めて説明することにした。




