北部にある検定会場
「無理ばかり言って申し訳ないが、あと一つだけ頼みがある。」
何度も頼んでばかりで申し訳ないとは思うものの。
美由紀も宗一郎もいない現状では黒柳に協力を願うしかないからな。
「あと一カ所だけ借りたい場所があるんだが、一日だけ借りられるように手配してもらえないか?」
「ん?俺に用意できることなら喜んで協力するつもりだが、どこを抑えれば良いんだ?」
改めて頼みごとをしたことで、
黒柳も質問を返してきた。
「一応言っておくが、俺が手配できるのはせいぜい学園内程度だぞ?」
…ああ、それで十分だ。
前もって手配できる範囲内を教えてくれる黒柳だが、
俺の目的はこの学園の内部でなければ達成できないからな。
「俺が借りたい場所は学園内だ。」
「それなら良いんだが、場所はどこだ?校舎そのものや研究所そのものと言われると少しばかり頭が痛くなる話だが…。」
…いや、それほど大きな話じゃない。
「この学園の北部にある検定会場を借りたいだけだ。」
「北部の…だと?」
「ああ、それがどういう意味かは黒柳なら分かるだろう?」
「ふっ、ははははっ!!なるほどな!そうか!それがきみの目的だったのかっ!!!」
俺の問い掛けによって全てを察してくれたようだ。
黒柳が大きな声で笑い出したことで俺の考えが伝わったのははっきりと感じ取れた。
「場所を抑えられるか?」
「当然だ!!検定会場なら俺の権限で十分封鎖できるからな。特に場所があの検定会場となれば問答無用で俺達の自由に使える。」
…だろうな。
「お得意の裏工作か?」
「ははっ!!まあ、きみに対してもそういう行動をとっていた事実があるために下手な言い訳は出来ないが、あの検定会場だけは様々な実験のためにルーン研究所が直接管理している場所だからな。きみが望むのならばどんな裏工作も整えられるぞ。」
…いや、そこまでの手間は求めないが。
「明日…いや、すでに今日というべきか。今日の夜まで人の出入りを制限できればそれでいい。」
「それだけで良いのか?」
「ああ、幾つか手はうってあるからな。これ以上の面倒をかけることはないはずだ。」
「…面倒だとは思わないが、きみがあの場所で願いを叶えようと思うのならそれ相応の準備は必要だろう?」
「そこは問題ない。必要な戦力はすでに呼び集めているからな。」
「ふむ、それなら良いんだが、万が一ということもあるだろう。きみの願いは正直に言って予測不可能な案件だからな。万全を尽くすという意味で俺も準備を進めようと思うのだが、それは構わないか?」
「ああ、好きにすれば良い。」
「分かった。それではきみの目的を叶えるために検定会場の封鎖は進めておく。それと同時に裏工作も行わせてもらうが、今から始めれば遅くとも昼過ぎまでにはなんとかなるだろう。」
…協力してもらえるのは有り難いが。
「今からだと眠る暇もないんじゃないか?」
「まあこの程度のことは日常茶飯事だ。それにきみの結末を見れるのならばのんびりと眠ってはいられないからな。きみの期待に応えるために全力で協力させてもらうつもりだ。」
「…そうか。何度も無理を言って悪いな。」
「ははははっ!!!気にするな!!これは俺の研究者としての職務でもあるからな。世界最強の名を冠するきみの力が見れるのならばどんな苦労も惜しくはない。だからきみは余計な気は遣わずに大船に乗った気持ちでいてくれればそれで良いんだ。」
「すまない。感謝する。」
「はははっ!任せておけ!!」
嫌なそぶりなど一切見せずに最後まで笑顔で答えてくれた黒柳は、
すぐ側に控える部下に手早く指示を出し始めた。
「西園寺君!!藤沢君!!ここからが俺達の本当の出番だ!!藤沢君は実験室の機材の運搬を急いでくれ!次の実験は学園史上最大級の超極秘任務になる。くれぐれも外部に情報が漏れないように徹底的に情報を封鎖して極秘裏に準備を進めるんだぞ!」
「え?い、今からですかっ!?」
「当然だ!!夜が明けてしまえば生徒達が動き出してしまうからな。朝がくる前に機材の運搬を終えるんだ。」
「そ、それはちょっと、厳しいかも…。人手が…。」
「これは仕事だ!個人的な趣味の範疇を越えた研究所の職務といえる任務だからな。それが納得できないと思う者がいるのならばルーン研究所を去ってもらって構わない!」
「そっ、そこまでの話なんですか?」
「当然だ!!!」
「で、でも…検定会場を封鎖して一体何を…?」
「…瑠美、ここは所長の指示に従うべきよ。」
黒柳とは違って事態を飲み込めていない藤沢瑠美は戸惑っているようだが、
今度は西園寺つばめが説得を始めた。
「これから行う任務は間違いなく研究所にとって重要な調査記録を手に入れられる最重要事項よ。だから時間がどうとか給与がどうとかそんな些細な問題を口に出すことは許されないわ。」
「そ、そうなの…?」
「ルーン研究所が何のために存在しているのかを忘れたわけじゃないでしょうね?」
「それは…もちろん…。」
「だったら迷ってないで行動しなさい。もしもこの任務に失敗すれば一生悔やんでも悔やみきれない貴重な実験記録を見過ごすことになるのよ。」
「う~ん…。よく分からないけど、これは研究所としての任務なのね?」
「ええ、そうよ。今ここでやっていることとは根本的に意味が異なるわ。」
「お~け~。つばめがそういうのなら信じるわ。」
西園寺つばめの説得を受けた藤沢瑠美は早急に周囲の部下を呼び集めた。
そして今回の魔術によって新たに得られた資料を部下達と共に全てかき集めてから、
持ち込んできた機材の撤収を部下達に命じて大急ぎで会議室を飛び出して行く。
「全員たたき起こして召集をかけてくるわね!!」
黒柳の指示を遂行するために特風会を去っていった。
その後を追いかけるかのように機材を運び出す研究員達が撤収を開始する中で。
「西園寺君にも頼みがある。」
黒柳は新たな指示を出そうとしていた。




