全く違う角度から
港町ジェノスにある北条家。
おそらく町に入ってからまっすぐに北条家に向かったのだろう。
ただ一人の執事の案内を受けて北条辰雄の屋敷に入った竜崎達が休息をとるのは雪の部屋だった。
「あらあら、随分とステキな贈り物を考えたわね。」
「…ああ、そうだね。」
空から降り注ぐ幾千万もの星の光を穏やかな微笑みを浮かべる長野紗耶香が窓際で見つめている。
そしてすぐ傍で寄り添う竜崎慶太も空から降り注ぐ星の光を物珍しげに見上げていると。
「お父さん…。お母さん…。」
二人のすぐ側にあるベッドで眠りについている竜崎雪は幸せそうな微笑みを浮かべていた。
「会いたかった…。ずっと…ずっと…。会いたかったよ…。」
実際にどういった夢を見ているのかは俺にも分からない。
だがおそらくは竜の牙の内部争いによって死んでしまった両親と夢の中で再会したのだろう。
もちろん夢はあくまでも夢でしかなくて決して真実ではないものの。
大切な両親の笑顔を思い出すことができたからか。
竜崎雪はとても幸せそうに微笑みながら心地好い夢の世界に心を委ねていた。
「お父さん…。お母さん…。大好きだよ…。」
夢の中で思い出を抱く。
そんな可愛らしい雪の寝顔を長野紗耶香と竜崎慶太は温かく見守っている。
「彼に感謝しないといけないね。」
「ええ、そうね。気難しい性格のわりに随分と洒落たことをしてくれるわよね。」
…気難しいか。
反論は出来ないな。
「ははっ、そうだね。だけどこれは彼にしか出来ない魔術だよ。」
「…まあ、そうでしょうね。少なくとも私には出来ないわ。」
「もちろん僕にもね。これは彼だから起こせる奇跡だと思う。だけどそれでもこれは彼の力のホンの一端でしかないだろうけどね。」
…どうだろうな。
実際にどこまで出来るかは俺自身にも分からない。
「それにしても夢を操る魔術、ね。悪夢ならともかく、幸福を与える夢なんて並の魔術では到底実現できない超々高等魔術よ。」
「ああ、そうだね。だけど彼はその特別な力を正しい方法で使おうとしている。だからきっとそこが彼の本当の価値だと思う。」
「ただ強いだけじゃなくて、力の使い方を知ってるってことね。まあそれは私達だって同じだと思ってるわ。」
「まあね。そういう部分では負けるつもりはないよ。だけど彼は僕達とは全く違う角度から世界を変えようとしているんだ。その優しい想いは素直に尊敬するよ。」
「ええ、そうね。その意見には私も賛同するわ。」
………。
言葉でも暴力でもない全く別の方法。
夢というはかない幻想によって人々の心を幸福に導こうとする新たな手段を竜崎達は褒めてくれていた。
そしてその新たな道を目撃した竜崎達は優しい想いを秘めた数千万の星の光に体を包まれながら過ぎ行く時の流れに静かに身を委ねていた。




