死者には
午前1時になった。
地下での戦闘を終えた俺は、
生徒指導室を離れてから特風会がある屋上に移動した。
…懐かしいな。
見慣れた景色とまでは言わないが、
見覚えのあるこの場所は翔子達と共に過ごした幾つもの思い出が残っている。
…この場所に来るのも今日が最後か。
そんなふうに思うと寂しさも感じるが、
だからと言っていつまでもここにいられる立場ではない。
…思い出は思い出としてこの場所に残していくしかないだろうな。
いつかまたこの場所に来るときがあるとすれば、
その時にまた過去を懐かしめればそれで良い。
「翔子…。」
俺の中で眠る精霊にこの景色を見せることは出来ないが、
仮にここで精霊になった翔子を召喚したとしても心をなくした精霊は何も感じないし何も思わないだろう。
…過去を懐かしめるのは生きている人間だけだ。
死者は何も感じない。
死者には過去も未来もない。
だからこそ翔子はもうどこにもいないという事実だけを実感してしまって、
油断すれば泣いてしまいそうな気持ちになってしまう。
「…まだだ。」
俺はまだ立ち止まれない。
ここで歩みを止めるわけにはいかない。
「俺にはまだやるべきことがある。」
遺された想いを残された者達に届けるために。
…今は前に進むだけだ。
過去へ想いを馳せるのは止めて未来への道筋を用意するために。
そして俺が俺で在るために。
「俺は俺の役目を果たそう。」
自らの役目を果たすために。
特風会の中へと歩みを進めることにした。




