協調性はない
「俺達を他のザコと同じだと思うなっ!!」
「何が何でもここから脱出させてもらうぜっ!」
勢い込んで飛び出してきたのは二人の男子生徒だ。
「鎌田俊雄と渋沢東吾だな?」
彼等の顔を見るのは今回が初めてだが、
この二人の魔力の波動には少なからず覚えがあった。
「ああ?俺の名前を知っているのか?」
「はははっ!!俺達も悪名だけは一流だな。」
俺の問い掛けによって鎌田は顔をしかめていたが、
渋沢は余裕の笑みを浮かべている。
まるで両極端な二人の態度は真逆の性格を思わせるが、
互いの動きを見定めながら的確に俺の死角を狙い済ます判断力はどちらも優秀だった。
…地下に閉じ込められていたわりには良い動きだな。
魔術師としての実力は別としても、
戦闘能力という意味では十分に優秀に思える。
だがそれは生徒としてであって、
まだまだ戦士として見れるほどではない。
「噂程度でしか知らないが、悠理に敗れて、御堂に屈し、長野淳弥に消されかけたとは思えない成長だな。」
「…ちっ!何故知ってやがるっ!」
「関係者だと言えば満足か?」
「ふざけやがって!!あいつらの仲間なら容赦しねえぜ!!」
…最初から手加減をしてくるようには見えなかったがな。
「再び地獄に堕ちたくなければ全力で戦うことを勧めておく。」
「ちっ!ナメやがって…っ!!」
俺の一言一言によって急激に苛立ちを増していく鎌田だが、
会話に無関係だった渋沢は冷静に俺の背後へと回り込んでいる。
「二対一だ。さっさと潰すぞ!」
「ふんっ!そんなことは一々言われなくても分かってる!!お前は黙って戦ってろ!」
「はっ!随分とナメた口をきくようになったもんだな。」
「知るかっ!手下を集めなければ戦えないようなやつに下手にでてやるつもりはない!!」
「…ふん。なんとでも言えばいい。だが俺を敵に回すつもりならお前にもここで死んでもらうぞ?」
「あぁ?俺を脅すつもりか?そんなことは無駄だ。お前にこびるつもりはない。そして死ぬとすればそれはお前だ。!最後まで生き延びるのは俺だからな!」
「ふん!雑魚が…。言いたい放題言ってくれるじゃねえか。」
激しく睨み合いながら言い争いを始めている。
どうやら鎌田と渋沢の二人はあまり仲が良くないようだな。
俺の動きを警戒しながらもお互いの意見を対立させてどちらが先に仕掛けるかを見定めているようだ。
…やはり協調性はないか。
他の生徒達はまだまともだったが、
目の前にいる二人はどう控え目に考えても犬猿の仲にしか見えない。
「喧嘩をするのは勝手だが、今は目の前の敵に集中したほうがいい。それが出来なければ二人ともここで朽ちることになる。」
「はぁ!?勝手に言ってろ!!朽ちるのはお前だっ!!」
俺の挑発を受けて一気に距離を詰める鎌田。
まず手始めに先制攻撃に出た鎌田が動き出したことで、
渋沢が生徒指導室に潜んでいた仲間達に突撃の指示をだしていく。
「一気に取り囲めっ!!!!鎌田を援護しろ!!敵の足止めをしつつ突破口を切り開けっ!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」」」」」
指示を受けたことで一斉に飛び出して来る生徒達。
まだまだ指導室に潜んでいた増援が翔子の魔術を回避して俺との距離を詰めてくる最中にも、
鎌田は渋沢に対して敵対の意志を示していた。
「やっぱりお前は自分一人では何も出来ないザコだ!俺は俺の自由にさせてもらうぞ。お前のようにザコを束ねていい気になる趣味はないからな。」
「はっ!好き放題言ってくれるな。だがどれほど強がったところでお前の実力は俺以下だ。その辺りの現実はしっかりと向き合うべきだぜ?」
「…黙れっ。」
…なるほどな。
鎌田と渋沢では僅かだが渋沢のほうが実力的に上回っているのだろう。
その事実を指摘して強気な態度を続ける渋沢だが、
鎌田は臆する様子を見せずに険しい表情で渋沢を睨みつけている。
「地下で大将を気取っているだけのお前など恐れる価値もない!」
「ふんっ!お前こそその小賢しい口を閉じることだな。あまり調子に乗るようならお前から殺してやるぞ。」
「殺れるものなら殺ってみろ!!その前に俺がお前を殺すだけだ!」
「…どこまでも口の減らない奴め。」
「お互い様だ。」
互いに数秒間だけ強く睨み合ってから再び俺に視線を戻す二人。
そんなくだらないやり取りを大人しく見ている間に鎌田が至近距離まで接近してきた。
「大抵の魔術師は喧嘩が不得意なもんだ!悪いが正面からぶん殴らせてもらうぜっ!!」
………。
魔術戦ではなくて肉弾戦を狙うつもりらしい。
そんな浅はかな考えで俺を倒すことは出来ないが、
対立関係にありながらも鎌田の支援を始める渋沢一派が俺の周囲を取り囲んで魔術の詠唱を開始しているのが見える。
「鎌田が倒れた直後にぶっ放せっ!!!」
…だろうな。
鎌田を囮にして必勝を目論むつもりのようだ。
その作戦自体も悪くはないが、それでは俺は倒せない。
…とは言え、言葉では分からないようだな。
いまだに実力の差を理解しようとしない鎌田達は自分達の勝利だけを信じて攻撃を仕掛けてくる。
「死ねっ!!!」
突進の勢いも込めて全力で拳を放つ鎌田の右手には風の魔術が発動していた。
どうやら単純な正拳突きではなくて魔術的な強化が施されているようだ。
「良い攻撃だな。」
「ふんっ!精霊の守りがない今のお前ならこれで十分だっ!!」
………。
…これで十分、だと?
精霊が俺の主力だと考えているのだろうか?
他の生徒達が精霊を迎撃している間に俺を制するつもりでいる鎌田だが、
その考えは安易としか言いようがない。
「…残念だがそれは無理だな。」
無造作に出した左手で鎌田の拳を受け止めてみせた。
「動きが遅すぎる。」
「なっ!?馬鹿なっ!?何故、魔術を受け止められるっ!?」
………。
防御結界どころか魔術の展開さえしていない俺を見て激しく動揺する鎌田だが、
俺にとっては悩むほどの理由ではない。
俺に操作出来ない魔術は存在しないからな。
「例えお前がどれほど成長していたとしても、そんな力量に関係なく全ての魔術を無効化することが出来る。ただそれだけの理由だ。」
「なっ…んだと…っ!?」
俺の説明した言葉の意味がすぐには理解出来なかったのだろう。
鎌田は驚愕の表情を浮かべながら動きを止めてしまっていた。
…そう言えば。
鎌田と向き合いながら拳を握り締めたことで、
とある出来事を思い出した。
「お前には一つだけ貸しがあったな。」
「…は?貸しだと?」
「ああ、そうだ。」
いまさらと言えばいまさらだが、
優奈を殴り飛ばした責任はとってもらおうか。
「少し古い話になるが、謝罪だけはしてもらう。」
俺はその場にいなかったが、
悠理を庇った優奈が鎌田に殴られた事実は知っているからな。
「謝罪…だと…っ!?」
「あまりこういうやり方は得意ではないが…。まあ、一度くらいは良いだろう。」
「な、何を…言ってやが…?」
「つまりはこういうことだ。」
戸惑う鎌田の言葉を遮りながら右手を強く握り締める。
そして鎌田の頬を全力で殴り飛ばした。
「ぐっ!?ぁぁ…っ!?」
…おっと。
どうやら思っていた以上に良い一撃が入ってしまったらしい。
勢いよく頭を揺さ振られたからか、
鎌田は軽い脳震盪を起こしてゆっくりと崩れ落ちていった。
…あっけなかったな。
単に殴り合うという物理的な攻撃によってあっさりと意識を失ってしまったようで、
鎌田は俺の足元に倒れた。
その結果として。
「攻撃開始っ!!!!」
再び渋沢が仲間達に指示を出した。




