肩を並べられるのは
校舎に侵入して地下1階に向かう。
階段を下りてから生徒指導室へと続く廊下を音を立てないように気を配りながら進んでいると。
不意に優奈の声が聞こえてきた。
『総魔さん。』
…ん?
…どうした?
…何かあったのか?
すでに午前1時に近付きつつある深夜だからな。
こんな時間に呼び掛けられるとは思っていなかったのだが、
どうやら優奈は現状を知らせるために思考を飛ばしてきたようだった。
『あ、いえ。そういうことではないんですけど、眠る前にちゃんと挨拶をしておこうと思いまして…。』
…ああ、そういうことか。
それは構わないが。
…話すべきことは両親に全て話せたのか?
『あ、はい。一通りの説明は出来ました。ただ、明日また旅立つことまでは話せてないんですけど…。一応、今日までの出来事に関してはちゃんと説明できたと思います。』
…そうか。
…それは良かったな。
『はい♪総魔さんがお家に帰るきっかけをくれたおかげです。今日は本当にありがとうございました。』
いや、俺に出来るのはこの程度だけだからな。
…優奈が幸せならそれでいい。
『はいっ♪ありがとうございます。私はもう十分過ぎるくらい幸せです。』
だとしたら何の問題もない。
本来ならすぐにでも帰りたかったはずなのに、
一ヶ月間ずっと我慢していたわけだからな。
…今この瞬間を大切にしろ。
…そして心の中にある想いを忘れるな。
『はい。今日という日は絶対に忘れません。とても幸せで、とても居心地よくて、お父さんとお母さんに抱きしめてもらった温もりはこれからも絶対に忘れません。』
…ああ、それでいい。
今まで抑え込んでいた感情を全てさらけ出すかのように、
優奈は両親と過ごす時間を楽しんでいるようだ。
…せめて最後は幸せな想い出を。
…そしてそれぞれに幸せな日々を。
それが生きていくための勇気に変わると信じて。
…両親と共に過ごせ。
『はい。そうさせていただきます。せめて今日だけは…お父さんとお母さんの娘として、最初で最後の恩返しをしたいと思います。』
…ああ、良い考えだな。
『はい。ありがとうございます。』
…いや、礼はいい。
…それよりも今日はゆっくりと眠れ。
『は、はい。そうさせていただきます。』
…ああ、また明日会おう。
『はいっ!今日はお疲れ様でした。また明日からは総魔さんのお手伝いをさせていただきますね。』
…ああ、そうだな。
…期待している。
今の俺と肩を並べられるのは優奈以外に存在しないからな。
優奈が協力してくれるのならこれほど心強いことは他にない。
…また明日な。
『はいっ♪お疲れ様でした。それと…一足先におやすみなさい。』
…ああ、おやすみ。
『はいっ!』
………。
就寝の前の挨拶を交わした優奈は、
幸せに満ちた想いを俺に届けてから今日という日を終えたようだった。




