意図的な現象
「先に言っておくが、俺はソレを所持していなかった。だが竜崎は一つの可能性として俺を追跡していたらしい。その結果として大破壊の中心になった決戦の地に竜崎もいたわけだが、そのことをまだ知らずに死を覚悟していた俺は竜崎と出会う直前に全ての魔力を費やして御堂達に幾つかの奇跡を残すことにした。」
「奇跡だと?」
…ああ、そうだ。
「俺が残した奇跡は黒柳達も見ていたはずだ。ミッドガルムが隠していた兵器の在りかで…死亡した美袋翔子や常盤沙織が遺した想いを目撃したはずだ。」
「っ!?やはり!やはりあれはきみが起こしていたのだな!?」
…ああ。
「あの二人もそうだが、北条真哉や近藤悠理に栗原徹達の想いも届けるべき者達に届けた。そしてその想いを通して俺は俺の持つ全ての魔力を分け与えた。その結果として俺は全ての力を失うことになってしまった。」
「…竜崎慶太の協力によって生存できたものの。魔力を失って瀕死の状態だったということか。」
「ああ、そうだ。」
そのせいで俺は戦争に参加することが出来ない状態だった。
「だが、美袋翔子君や常盤沙織君の想いが無事に御堂君達に届いたことで…。」
「ああ、魔力を取り戻した俺はようやく自由に行動できるようになった。」
「それがこれまで姿を見せなかった理由なのか。」
…ああ、そういうことだ。
「その間に身動きの取れない俺の代わりとして御堂を支えてくれていたのが竜崎だった。」
「なるほどな。そういう事情で彼は共和国に手を貸してくれていたのか。」
「アストリアの決戦の地まで密かに俺の尾行をしていた竜崎慶太がアストリアからの脱出に協力してくれたこと。そして俺は魔力を失って動けなかったこと。それが俺が生存していながらも今まで姿を隠していた理由になる。」
「そうか…。きみはきみで戦っていたのだな。」
「まあ、そうなるな。決して一人ではなかったが、俺も御堂達に手を貸していたつもりだ。」
「ん?一人ではないというのはどういう意味だ?」
大破壊による消失の危機からの脱出に成功して生存したのは俺だけではないからだ。
「最後まで共に行動していた優奈も俺と共にミッドガルムへ逃亡することに成功している。」
「ほう、深海君も生きているのか…。」
「今は家に帰っていてここにはいないが、明日の朝には学園に来るはずだ。」
「そうか。生存者が一人でも多くいることは素晴らしいことだ。きみと深海君の無事が分かっただけでも実によろこばしいことだからな。」
「戦時中に兵器の力が逸れたことや、常盤成美の魔力が回復したのは全て優奈がしていたことだ。」
「ふむ。深海君も遠くから手を貸してくれていたのだな。」
「ああ、身動きの取れなくなった俺の代わりに御堂達を見守り続けて、自らの身体を犠牲にしながらも魔力の供給を続けていた。」
だからこそ俺も御堂達も最後まで戦い抜くことができたのだ。
「なるほどな…。俺達は知らず知らずのうちにきみや深海君に守られていたのか。」
結果的にはそうなるだろうな。
「共和国にとって都合の良いことばかりが『偶然』起きていたわけじゃない。それらは俺や優奈が介入して起こしていたことだ。」
共和国の窮地に常に起こっていた奇跡。
それらは偶然ではなくて意図的な現象であり、
俺と優奈によって起こしていた魔術による干渉だった。
「俺も優奈も生きていたが戦争には参加できなかった。だが、だからと言って何もしていなかったわけじゃない。様々な事情があって動けなかっただけだ。」
「なるほどな。そこまで聞ければ十分だ。御堂君達と違って俺達はそこまで把握していなかったが、きみがそういうのならそれが真実なのだろう。」
「…これで満足できたか?」
「まだ幾つか気になることはあるが、詳細に関しては宗一郎さんに聞くことにする。」
…ああ、そのほうがいい。
「宗一郎には全てを話してきたからな。問題のアレに関しても宗一郎から直接聞いてみれば良い。」
「…そうだな。その辺りも含めて宗一郎さんに聞いておこう。その代わりと言っては何だが、次にきみがここへきた理由を聞かせてもらおうか。」
「ああ。」
これまでのいきさつに関してはひとまず理解してもらえたようで、
黒柳は核心部分に話を進めてきた。




