感情論は
…ふぅ。
結局、詳しい事情が分からないままなのだが。
藤沢瑠美への想いが実らずに困惑を続ける男を放置してから数分が経過した。
…それにしても、だ。
何故か今でも藤沢瑠美と腕を組んだままでいる。
俺としてはさっさと開放してほしいのだが。
藤沢瑠美は後方を警戒しているようで、
ルーン研究所まで続く長い階段を二人で並んで下りていた。
………。
そこまで気にする必要があるのか?
「もう良いだろう?いつまでこうしているつもりなんだ?」
俺としては腕を組んで歩くためにここにいるわけじゃない。
「もう十分だろう?」
さきほどの男がどうするかは分からないが、
少なくとも追いかけてくるような気配はないはずだ。
…と言うよりも。
よほど動揺していたのだろう。
男は一歩も動かずに同じ場所に留まり続けている。
「用が済んだのなら離してくれ。」
「あ、うん。ありがとう、それとごめんね。」
腕を組んだままでは歩き難いからな。
ただそれだけの理由でさっさと離れるように頼んでみると、
藤沢瑠美はすんなりと解放してくれた。
「貴方がいてくれて助かったわ。別に彼が嫌いとかそういうことじゃないんだけど。どうしてもああいう雰囲気には馴染めないのよね~。」
「恋愛は苦手なのか?」
「まあ、ね…。自分でも何とかするべきだとは思ってるんだけど、どうもその手の話は苦手なのよね~。だってほら?研究者って理論的に物事を考える仕事でしょ?私情や感情を切り捨てて理論的に事実を判断する仕事だから、必然的に感情論は苦手な分野になってしまうのよ。」
…ああ、なるほどな。
「一種の職業病だな。」
「そうかもしれないわね。だからまあ、理論では説明できない恋愛感情なんていうあやふやな心理状況を分析するのって苦手だし、判断できない恋愛観に関して話し合うのは昔から不得意なのよね~。」
「そのわりには他人の幸せには口を出すんだな。」
「あ~。もしかしてつばめのこと?」
「ああ。」
「あれはほら、分からないからこそって言うべきかもしれないわね。自分では理解できない感情だから、つばめを観察して理解しようかなっていう感じなのよ。」
…なるほど。
「つまり、親友でさえも調査対象ということか。」
「うわ~。そういう言い方をしてしまうとあれだけど。でもまあ、つばめが幸せになってくれれば私もその気になれるかな~?くらいには思ってるわ。」
「その相手がさっきの男か?」
「それはどうかしらね。別に嫌いじゃないけど、だからって好きなわけでもないし…。候補に入るかどうかさえ微妙よね~。」
…恋愛の候補か。
「他に気になる男でもいるのか?」
「ううん、全然。」
考えるそぶりを一切見せずに即答で断言していた。
「…まだまだ先は長そうだな。」
藤沢瑠美の恋愛の相手はまだまだ当分見付からないようだった。




