演説場
入口での騒ぎが一段落ついてから数分後。
藤沢瑠美の案内を受けながらルーン研究所に向かう地下への階段を目指して薄暗い研究所の通路を進んでいたのだが。
「「「………。………。………。」」」
研究所の各所から漂う不穏な空気に対して少し違和感を感じていた。
「入口付近だけではなくて全体的に殺気立っているな。以前ならここまで張り詰めた空気は感じなかったはずだが…?」
「あ~、やっぱり分かる?まあここも色々あったしね~。竜の牙に襲撃を受けたり、戦争が始まったりしたでしょ?一応その手の問題が解決して終わったとは言っても、壊れた施設の復旧や亡くなった人達の悲しみまでが解決するわけじゃないから、みんな複雑な心境を感じながらもそれぞれの役割を果たそうとして必死なのよね~。」
「つまり、その心の現れがさっきの騒ぎということか。」
「う~ん、まあ、ね。戦争が始まる前ならああいう過激なことは起きなかったんだけど、今はみんな精神的にも疲れ果ててるし、些細なことで殺気立ったりするくらい疲労が蓄積してるみたいね。」
「ここは事後処理に追われてるんだな。」
「まあね~。そういうこともあって黒柳所長もつばめも休日返上で働き続けてるんだけど、お互いに疲労が積み重なってフラフラみたいよ。今でも所長室で今後の方針に関して話し合ってるみたいだけど、山積みに積み重なった諸々の問題はまだまだ当分の間は解決しないでしょうね~。」
…なるほどな。
「それが分かっていながらも会議には参加しないんだな。」
「ああ、まあ…ね。って言うか、あれはもう会議って言うか、一方的なつばめの演説場になってるような感じだからまともな意見交換なんて出来ないわ。」
…ああ、そういうことか。
「あの二人は相変わらずのようだな。」
「まあ、あの二人は戦争があってもなくてもそんな感じよ。…と言うよりも、むしろ危険な戦場を生き抜いてきたことで精神的に鍛えられちゃったつばめの態度は以前よりもさらに強気になっちゃったし、ただひたすらに暴言に堪えるしかない所長の心労は日々膨らんでいく一方でしょうね~。」
「…それも上に立つ者の宿命だな。」
「まあね。だけど貴方が間に入ってくれるのなら所長の苦労も少しは軽減されるんじゃない?」
…どうだろうな。
「反対に心労が増す可能性もあるんじゃないか?」
「う~ん。それは貴方の行動次第ね。とりあえず私は様子を見させてもらうわ。」
余分な質問は一切行わず。
これまでのいきさつやこれからの目的などの情報も求めないまま黒柳がいる所長室まで道案内をしてくれる。
そんな藤沢瑠美のさりげない配慮に感謝しながら薄暗い通路を歩いていると。
「…ん?瑠美じゃないか。」
通路の曲がり角から姿を見せた見知らぬ男が藤沢瑠美に気付いて話しかけてきた。




