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THE WORLD  作者: SEASONS
5月14日
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決断の理由

両親と無事に再会して、しっかりと自分の口で『ただいま』と伝えた優奈は、

小さな部屋の中で両親と向き合いながら今日までの出来事を語り始めた。



「ねえ、お父さん、お母さん。私ね、今日まで本当に色々なところに行って本当に沢山のことを学んできたの。だから…だからね。聞いてくれるかな?私がどこで何をしてたのか。それと、どうして帰ってこれたのか。私の話を聞いてくれるかな?」


「ええ、優奈の話なら何でも聞いてあげるわよ。」


「もちろん父さんも聞かせてもらうよ。」



今日までの出来事に関する話を聞いてほしいと願う優奈。


その切実な願いを受ける両親は迷うことなく優奈の願いを受け入れていた。



「うん。ありがとう、お父さん、お母さん。」



何も言わずに姿を消したことで死んだと思われていた優奈が突如として帰ってきたこと。


そして何よりも両親に対して説明できないまま一月の時が流れて、

多くの心配をかけていたことを素直に反省する優奈は感謝の想いを言葉にしてからこれまでのいきさつを語り始めた。



「あのね、私ね。一ヶ月前のあの日からずっとね…。戦争に参加していたの。」


「………。」


「………。」



御堂からの報告によってすでにおおよその事情を理解している両親は、

優奈の告白に対して褒めることも叱ることもしなかった。


その代わりに優奈の両親は娘の言葉に耳を傾けて、

ただ静かに優奈の話を聞いている。



「多分、御堂先輩から話を聞いてると思うけど。私ね、友達や…家族や…色々な人達を守りたくて…ただ大切な人達に生きていてほしくて…そのために自分に出来ることを精一杯してみようと思ったの。」



ジェノスや共和国を守り、

多くの命を守ってきた優奈だが。


その根底にある想いはただ大切な人を守りたいという純粋な願いだった。



「私…ね。どう話をすれば良いのか分からないけど…だけどね。本当はずっと怖かったの。それは戦争がどうとかそういうことじゃなくて、一人になることがすごく怖かったの。」


「…ゆ、優奈…。」



優奈の告白を聞いて涙を流す母。


幼い頃からずっと友達を作れずに孤独に生きてきた娘の寂しさを母は誰よりも理解しているようだ。



だからこそ。


娘の切ない想いを胸に抱いて涙を流してくれた。



そんな母を目の前にしながらも、

優奈は自分の想いを語り続けていく。



「ずっと…ずっとね。子供の頃からずっと友達と呼べる人がいなくて、ずっとお父さんとお母さんに甘えてばかりいて、自分一人では何も出来ない私だったけどね。だけどこんな私でも学園に入ってからは友達と呼べる人が沢山出来たんだよ。私を恐れたり嫌ったりせずに、私を大切に想ってくれる人達と出会うことが出来たんだよ。」



優奈が想う友。


それはもちろん近藤悠理であり、

翔子や沙織や俺や御堂でもある。



「だから…だからね。大切な人達が戦争に向かうって決めた時に、私も一緒に行こうって思ったの。戦争なんて本当はとても怖いけど…。だけどみんなが苦しんでる時に何も出来ないなんて嫌だったし…この町に残って一人ぼっちになることが何よりも怖かったの。」



旅立つ仲間達を見送ることよりも共に戦う道を選んだ。


その決断の理由が『孤独への恐怖』であったとしても誰も批判は出来ないと思う。



そもそも戦場に立つ者にはそれぞれの考えがあり、

それぞれの想いがあるからだ。



だからこそ意見が対立して、

生死を賭けた戦いへと発展してしまうこともある。



そんな様々な想いの中で、

一人になる恐怖を拭い去るために戦場に立つ者もいた。



その一人が優奈だった。



「一人になりたくなかったの…。みんなに置いて行かれることがすごく怖かったの…。」



孤独になりたくないという想いが優奈が戦場に立った理由であり、

その想いこそが共和国を守り抜くことが出来た理由でもあった。



「みんなと一緒にいたかったの。そしてみんなと一緒に帰ってきたかったの…。ただ…それだけだったの…。」



何が正しくて何が間違っているのか?


そんなことは考えていない。


優奈の目的は全員の生還であり、

いつまでも変わらない幸せな日常だった。



「だけど…だけどね。アストリアで見た戦争は私が思っていた以上に残酷で…。私や…御堂先輩や…ごく一部の人達だけしか生き残れなかったの…。みんなで一緒に帰ろうって何度も話していたのに…それなのに…みんな次々と死んでいって…私は誰も守れなくて…結局は…」



栗原徹の犠牲と引き換えに、優奈だけは生き残った。



「私は馬鹿だったの…。頑張れば何もかもが上手くいくなんて、そんなふうに簡単に考えていたの。だけど…だけど現実は私が思っているようにはいかなくて…。みんなを守るどころか、私だけがいつもいつもみんなに守られていて…。気が付いた時にはもう周りには誰もいなくなっていて、最後まで生き残れたのは…たった3人だけになっていたの…。」



俺と優奈と御堂。


その3人だけが消失したアストリアから生きて帰ってこれた。



「…それでね。アストリア王国が消失したあの日に…私はミッドガルムの人達に救助されて、しばらくそこで保護されていたの。」



詳細は伏せているが、

竜崎慶太の手助けによって俺と優奈は生存して反乱軍の砦に身を潜めていた。



「それで…それでね。ずっと連絡もとれなくて…今まで帰ってくることが出来なかったの。」



今まで帰って来れなかった理由を話したことで、

父が帰還の経緯を問い掛けてきた。



「ミッドガルムからは遠かっただろう?」


「う、うん。すごく遠かったよ。」


「優奈は一人で帰ってきたのか?それとも誰かに送ってもらったのか?だとしたらその人にお礼を言わないといけないな。」


「えっと、ずっと傍にいてくれた人がいたから大丈夫だったよ。とても強くて…とても頼りになる人がいつも傍にいてくれたから大丈夫だったよ。」


「そうか…。その人は今どこに?」


「え~っと。この町にはいるんだけど、今は別行動だから…。」


「居場所は分からないのか?」


「う、うん。一応…。」



俺への配慮としてあえて情報を伏せる優奈だが、

決して知られて困る話ではない。



少なくとも御堂との決着がついてしまえば、

それ以降は俺の情報が流れたとしても何の問題もないからな。



…と言うよりも。



全てが終わったあとは俺の存在が明るみに出たほうが色々と都合が良い。



秘宝を持つ人物が共和国から去ったという噂が流れれば、

それだけでも宗一郎や共和国の脅威が減少するからな。



…あと20時間ほど情報が抑えられれば十分だ。



『はい。分かっています。』



俺の思いに即座に答える優奈。


その的確な配慮に感謝しつつ。



…一晩だけでも幸せに過ごせ。



今は優奈の幸福を願うことにした。




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