一ヶ月もかかったけど
本来なら水晶玉だけでは向こう側の声までは聞こえないのだが。
今回は優奈から直接伝えられているために、
どうにか会話の内容も把握できそうだった。
「ただいまっ!お父さん、お母さん!!」
精一杯の声を張り上げて一月ぶりに帰宅を知らせた優奈の言葉によって、
玄関から見える奥の部屋から優奈の両親が飛び出してくる。
「…ゆ、優奈なのっ!?」
「そっ、そんな馬鹿なっ!?」
御堂の証言によって死亡したと知らされていたからだろう。
両親は突然の優奈の帰宅によって激しい動揺をあらわにしていた。
「ゆっ…優奈ぁっ!!!」
「まさか…っ!?まさか…っ!?本当に…優奈なのかっ!?」
「う、うん。そうだよ。」
驚き戸惑う両親に反して、
優奈の言動はとても穏やかに感じられる。
「ただいま、お父さん、お母さん。私ね、ちゃんと帰って来れたんだよ。あの日に…お父さんとお母さんに『行ってきます』って言ってから一ヶ月もかかったけどね。だけどちゃんと帰って来れたんだよ。」
…一月、か。
俺にとってもそうだが、
優奈にとってもとても長い期間だったはずだ。
それなのに。
慌てずに落ち着いて話が出来るのは精神的に成長した証だと思う。
…成長したな、優奈。
『い、いえ…。』
少し恥ずかしそうに応える優奈だが、
その瞳はしっかりと両親の姿を映し出している。
「ごめんね、お父さん、お母さん。本当はもっと早く帰ってきたかったんだけど…だけどね。」
すぐには帰って来られなかった。
その理由を説明するために順を追って話をしようとした優奈だったが、
優奈の両親は優奈の言い訳を聞くことよりも先に優奈の体を抱きしめることを選んでいた。
「良いの…。良いのよ、優奈。」
「ああ、無事に帰ってきてくれただけで何よりだ。どこでどうしていたかなんてどうでもいい。優奈が帰ってきてくれただけで父さんも母さんも満足なんだからな。」
「………。」
「お帰りなさい、優奈。」
「おかえり、優奈。」
死んだと思っていた娘の帰宅。
その事実だけで幸福に満たされたのだろう。
「ありがとう、優奈。」
「帰ってきてくれてありがとう。」
優奈の両親は溢れこぼれる涙を拭うことさえ忘れて、
強く強く優奈の体を抱きしめていた。




