やはり無理だった
夜の10時を過ぎた頃。
矢野霧華の必死の努力も虚しく、
グランバニアから来た馬車がジェノスの北部に到着してしまったようだ。
そのうえ自分の家がどの方角なのかも理解しないまま直感だけで歩きだしてしまった常盤成美が移動を開始したせいで、
矢野霧華の予想通りに迷子になってしまったようだな。
…やはり無理だったか。
捜索を開始する矢野霧華が夜のジェノスをさ迷い始めている。
…手を貸すのは簡単だが。
今はまだそこまで気にかける必要はないだろう。
万一のことを考えて常磐成美には密かにミルクを護衛につけているからな。
もうしばらく矢野霧華を信じて様子を見よう。
そんなふうに考えながらも二人の魔力の波動を探っていると、
不意に優奈の声が届いてきた。
『総魔さん。』
…ん?
…どうした?
『今からお家に帰ります。』
…そうか。
…気持ちの整理は出来たんだな?
『はい。もう大丈夫です。だから…。だから私の想いを…最後まで見届けてください。』
…ああ、分かっている。
…お前の決断と意志を最後まで見届けよう。
『ありがとうございます。』
願いを込めてから一歩を踏み出す優奈。
その動きを映し出す水晶玉から見える景色は、
玄関の扉を開いて家の中へと歩みを進める優奈の足元をはっきりと映し出していた。




