魔力が足りない
時刻は午後9時を過ぎた頃。
翔子の家を離れた俺は、
もう一つの目的のために学園に向かって歩みを進めていた。
…学園か。
…あの場所に向かうのも一月ぶりになるのか。
町のどこにいても必ず見ることの出来る学園。
ジェノスの町の中心に並び立つ学園の校舎や寮や検定会場の姿は夜の暗闇の中でも魔力の灯によってその存在を堂々と示している。
…必要な力は十分にあるはずだ。
今から俺が仕掛ける作戦は学園の力を借りなければ実現できない。
…優奈がいれば、わざわざ学園に向かう必要はないが。
俺一人の力ではおそらく魔力が足りないからな。
これから発動する魔術は俺一人の魔力では到底補えないと判断している。
せめて優奈がいればどこからでも魔術を展開できるのだが、
実家に帰宅させた優奈は傍にはいないからな。
今は戦力には数えられない。
…とは言え。
肝心の優奈はまだ家には戻っていないようだった。
水晶玉が映す景色は家の前で止まっていて完全に足を止めている。
…戻る予定がなかったことで、どう話をするか迷っているんだろうな。
優奈が家に入るまでにはまだ少し時間が必要かもしれない。
…もう少し様子を見るか。
魔力を飛ばして声をかけることで優奈の後押しをしても良いのだが、
今は優奈自身に判断を委ねるべきだろう。
…自分の心で決断しろ。
それが当然のことだと考えて、
優奈の決断を待つことにした。




