一通の手紙を
港町ジェノスのとある一画。
この場所は俺自身も初めて訪れる場所であり、
俺では足の踏み込むことの出来ない一種の聖域だと思っている。
…翔子。
…ここがお前の生まれた家か。
美袋と書かれた標札のかかる家。
この場所で翔子は育ち、
この場所から翔子は旅立った。
「本来なら直接両親に会って謝罪するべきだろうな。」
それが当然の行動であり、
俺の義務だとも思う。
…だが。
「ここで俺が両親に出会っても何も出来ないだろう。」
ただ会って謝罪するだけでは両親の心は救えないからだ。
そんな単純な方法では翔子の想いは届けられない。
「だから今は…」
今はまだ両親には会わない。
その代わりに俺は俺の役割を果たすために必要な一手を残していこうと思う。
「翔子。」
お前の残した想いはきっと両親にも届くはずだ。
だからお前から預かったモノを両親に届けよう。
そしてお前が生きた証を両親に残そう。
何もできずに見殺しにしてしまった俺を愛してくれた翔子のために。
「お前から預かったこの手紙を…お前の両親に残す。」
俺への想いを綴った翔子の手紙をこの場所に残していく。
そうすることで翔子の残した想いを翔子の両親にも理解してもらおうと考えていた。
翔子が何のために戦争に参加して、
翔子は誰のために死んだのか?
その全ての想いを理解してもらうために。
翔子が残してくれた一通の手紙を翔子の家に届けた。
そうして俺は翔子の両親に会うことはせずに静かに翔子の家から離れることにした。




