謝りません
「さて、色々と問題にすべきことが起きてはいるが、まずは試合が終わったことに関してはご苦労様とでも言っておこうか。」
…あぅ。
御堂先輩が発動した大破壊と私の勝手な乱入。
さらには冬月さんを殺害しかけた事実と強制的に試合場から引きずり下ろした事実。
そんな様々な事情を問題として判断した様子の米倉元代表は、
私達を見つめながら一度だけ問い掛けてきたわ。
「何か言いたいことはあるか?言うべきことがあるのなら聞いてやろう。」
………。
言い訳があるのなら聞くという意味合いを含ませた問い掛け。
ここでどう答えるかによって私達の印象が変わってしまうと思うんだけど。
「いえ、何もありません。僕は僕に出来る全力を尽くしただけです。何も言い訳することはありません。」
御堂先輩は堂々とした態度で自分の意志を告げていたわ。
…え、えっと。
…それで良いの?
もっとこう上手く説明するべきだと思うんだけど。
御堂先輩に言い訳する気はないみたい。
「なるほどな。ならばきみはどうだ?鈴置美春君。」
…わ、私?
「そ、その…。私も特に説明することは…ない、と思います。」
「ほう…。試合に乱入しておきながら何も説明することはないと言うのだな?」
…あ、あぅ。
「そ、それは、その…。」
そういう言い方をされるとすごく申し訳ない気がしますけど。
「私も自分の行動が間違っていたとは思っていません。」
大会の規則には反するかもしれないけどね。
ウィッチクイーンにも言ったことだけど。
私は私の想いを貫いただけなのよ。
「私は後悔なんてしてませんし、謝罪しようとも思いません。」
「…ならば確認するが。今回の件に関しては二人とも謝罪する気がないという結論でいいのだな?」
…うぅ。
「そ、それは…。」
謝らなければ反則負けになってしまうということよ。
そういう状況だって気付いてしまったわ。
「そ、その…。」
すぐに謝らなければいけないのよ。
そのうえで御堂先輩の勝利を何としてでも求めなければいけないの。
「…し…ゃ…。」
謝罪してもいいとは思う。
それで御堂先輩の勝利が確定するのなら。
私はどう思われても構わないと思うのよ。
…だけど。
「謝りません。」
御堂先輩が私を遮って断言してしまったわ。
「謝罪すべきことは何もありません。そもそも魔術大会において周りに被害が出ないようにするのは運営側の務めのはずです。その努力が足りなかったことで周りに被害が出たとすれば、それは大会の管理体勢に問題があると思います。」
…う、うわぁ。
「ははっ。言ってくれるな。」
「ええ、言わせていただきます。そして鈴置さんに関しても反論させていただきますが、もしも彼女が何もしなければ冬月さんは死亡していました。その件に関しては僕にも責任はありますが、人命を優先して行動した鈴置さんの判断は正しいと思います。」
…せ、先輩。
決して過ちだとは認めずに。
正当な行為だったと主張する堂々とした態度には一切の迷いが感じられなかったわ。
それどころか自分の想いを示す一途なまでの誇りがかいまみえるほどだったのよ。
…すみません。
やっぱり御堂先輩はいざという時にすごく頼りになるわよね。
米倉元代表と向き合いながらも全く臆することのない御堂先輩からは確かな自信しか感じ取れないからよ。
…さすが先輩です。
個人的に心の底から称賛したい気持ちを感じていると。
「はっはっはっはっ!!!!」
突如として米倉元代表が笑い出したわ。
…どういうこと?
怒りに来たと思っていたのに。
どうしてここで笑えるのかしら?
「さすがだな、御堂君。きみならそう言うだろうと思っていた。」
…え?
…思ってたって?
…どういうこと?
そもそも米倉元代表は何をしにここへ現れたのかしら?
そんな疑問を感じていると。
「きみ達はそれで良いのだ。」
米倉元代表は穏やかに微笑んでくれていたわ。




