想いを叫ぶ時間さえ
「ぐっ…ぅ…ああああああああああああああああぁぁ…っ!!!」
胸から脇腹にかけて十字に体を切られた御堂先輩の絶叫が鳴り響く。
その直後に立っていることさえ出来なくなってしまった御堂先輩は、
成す術もないまま再び試合場に倒れ込んでしまったわ。
「おおーーーーっと!!!これはまさかの展開ですっ!!優勝候補として最も期待されていた御堂選手がついに倒れてしまいましたーーっ!!」
………。
「ふふっ。たわいもないわね。」
御堂先輩が倒れた瞬間に実況を白熱させる係員。
ほぼ同時に審判員が御堂先輩の様子を窺い始める中で冬月さんは勝利を宣言していたわ。
「もう少し楽しめると思っていたけれど、貴方の力ではこれが限界でしょうね。」
「く…っ…。」
反論さえ出来ない様子の御堂先輩は、
ただただ悔しそうに俯いてしまってる。
これはもうどう見ても立ち上がる力どころか反論する気力さえもなさそうよね。
拳を握り締める程度の微かな抵抗が精一杯の御堂先輩にはもう冬月さんを見上げることさえ出来ないみたい。
「これが…きみの…力…なのか…。」
「ええ、そうよ。そしてこの力で私は魔女の女王に君臨するのよ。」
「すごい…ね。この短期間で…きみは…ちゃんと…成長…したんだね…。」
「ふふっ。今更気付いても手遅れよ。貴方はもう立ち上がることさえ出来ないわ。」
「い、いや…。僕は…最後まで諦めない…よ。」
「ふふっ。残念だけど、貴方にはもう想いを叫ぶ時間さえ与えてもらえないのよ。」
「………。」
ただただ事実だけを宣言する冬月さんの言葉を実証するかのように、
御堂先輩に歩み寄る審判員が試合の判定を下そうとしていたわ。
「貴方はもう戦闘不能とみなされて敗北するのよ。それがこの大会の結末。そして嫌でも挫折を味わうしかない絶望を目の当たりにすることで、貴方の活躍は終わることになるのよ。」
「…くっ。そうか…。それで…そのために僕を殺さないように…。僕の意識を…途絶えさえないように…していたのか。」
「ふふっ。ようやく気付いたの?今更気付いてもどうしようもないけれど、私は最初から貴方に絶望を見せ付けるために戦っていたわ。だから言ったでしょう?これは闇の宴だと、ね。」
「僕を…挫折させるための…?」
「ええ、そうよ。」
………。
はっきりと断言する冬月さんの余裕の笑みはとても魅力的で。
とても艶やかで。
とても美しくて。
見ているだけで心を奪われてしまうほど妖艶な微笑みだったわ。
だからこそ。
私には悪鬼羅刹に等しい存在に思えてしまうのよ。
…本物の鬼ね。
純粋な闇は狂気に等しいのかもしれないわ。
冬月さん自身がどうとか、
そんなふうには言わないけれど。
冬月さんの力は狂気に満ちていると思うのよ。
…これが冬月彩花さんの力。
次期女王として急激な成長を果たした冬月さんの実力は御堂先輩を完全に越えていたのよ。




