闇の宴
「さあ、始めましょう。悪夢へと繋がる闇の宴を…ね。」
宵の口を過ぎて始まる闇の宴。
その先に待っているのが輝かしい夜明けなのか。
それとも永遠の悪夢なのかは誰にも分からない。
…だけど。
動き出した時間は確実に二人の試合を結末へと導いてしまうのよ。
「シャドウ・ステップ!!」
優雅さと気品を併せ持つ冬月さんの舞い踊るような攻撃が一陣の風を吹かせる。
そして気づいた時にはすでに手遅れで、
耳障りな金属音が鳴り響くと同時に御堂先輩のエンペラーソードが破壊されてしまったのよ。
「っ!?」
「あらあら?残念だったわね。」
たった一撃でエンペラーソードを破壊した冬月さんは再び俊敏な動きで御堂先輩の背後に忍び込んでから二本の小太刀を交差させて御堂先輩の背中を十字に切り裂いてしまったわ。
「ぐっ!?うあああああああっ!!!!」
立ち上がっても立ち上がっても全く歯が立たない。
ただただ冬月さんに翻弄されるだけで、
負傷して試合場に倒れてしまったのよ。
「くっ!早過ぎる…っ!」
背中の痛みを必死に堪えながら、
急いで距離をとろうとする御堂先輩だけど。
「…まだ私から逃げられるつもりでいるの?」
冬月さんは御堂先輩を逃さずに、
まるで影のようにしつように背後に忍び込んでしまう。
「貴方が抱いていた夢や希望を…全て幻想に変えてあげるわ。」
………。
あらゆる夢や、あらゆる希望。
そしてあらゆる願いの全てを奪い取ろうとしているのよ。
…これが冬月さんの力なのね。
絶対的な存在。
彼女にはそう思わせるだけの力があるのよ。
「頂点を目の前にしたこの場所で、挫折と絶望を受け入れなさい。」
御堂先輩に勝利は譲らない。
ジェノスの栄光はここで潰える。
そんな幾つもの意味を込める冬月さんの言葉には優越感にも似た想いが感じ取れたわ。
…御堂先輩を相手にしていながらも試合を楽しんでいるのね。
御堂先輩を追い込んで。
御堂先輩を苦しめて。
御堂先輩を挫折させることを楽しんでる。
私にはそんなふうに見えたのよ。
…これが鬼と化した冬月さんの実力なの?
人の道を踏み外して悪鬼と化した冬月さん。
その力は確かに人の限界を越えているわ。
「ふふっ、見せてあげるわ。私の真の実力をね。」
揺らぐことのない強気な態度を貫く冬月さんが今まで見せたことのない独自の魔術を展開していく。
「秘義…狂想曲!!!」
御堂先輩の動きを完全に捕捉しつつ。
舞い踊るような華麗な乱舞によって御堂先輩の体を二本の小太刀で切り刻んでいく。
その一刀一刀が闇の力をほとばしらせて、
切り刻んだ御堂先輩の体を徐々に腐食させていったわ。
「う、あ、ああぁぁぁぁぁっ!!!!」
「ふふっ。体が腐り落ちていく感覚を存分に味わいなさい。」
…うわぁぁ。
絶対的優位な状況での一方的な攻撃。
二本の小太刀によって次々と御堂先輩の体を切り裂く冬月さんは、
御堂先輩の体から吹き出す血飛沫を舞い散る花びらのように美しく彩りながら決勝戦の舞台で華麗な乱舞を見せ続けたわ。
…そして。
「これが女王の力よ。」
狂想曲という名前に相応しい完璧な乱舞によって、
御堂先輩を文字通り『血祭り』にあげてしまったのよ。




