反応
「突然で悪いが、ちょっといいか?」
「ああ」
「俺にも『原始の瞳』ってやつを貸してほしいんだが、今も持ってるか?」
「ああ、それが目的か。それならある。これだ」
総魔は制服のポケットから水晶玉を取り出して、真哉に手渡したわ。
「ふーん。思ったよりも小さいんだな」
真哉は水晶玉を手の平で転がしながらじっと見つめてる。
だけど、それだけだったわね。
「で?どうすればいいんだ?」
「何もしなくていいんだよ。」
尋ねる真哉に龍馬が答えてた。
「ただ持つだけでいいんだ。それで反応を示さないなら残念だけど、真哉には潜在能力がないということだろうね」
「はぁ?マジか?」
不満そうに呟く真哉を眺めた龍馬は苦笑いを浮かべながら水晶玉に手を伸ばしたわ。
そして、手のひらの上に乗せたのよ。
それだけで水晶玉が輝きだしてる。
真哉の時とは違って水晶玉が反応したわね。
龍馬の手のひらの上で光り輝く水晶玉を見た真哉は落胆するかのように肩を落としていたわ。
まあ、別に真哉の結果はどっちでもいいんだけど。
私としては優越感を感じる瞬間だったわね。
…って、あれ?
これって何かおかしくない?
よくわからないけど、
何かが違う気がしたのよ。
「ったく…。結局、待ってた意味がねえじゃねえか」
ぼやく真哉に、今度は沙織が話しかける。
「私も反応しなかったから、北条君だけじゃないわ」
「いや、まあ、そうかもしれねえが、期待した分だけがっかりだな」
ふふん!
やっぱりここは私の出番ね。
落ち込む真哉に見せびらかしてやろうと思って、
今度は私が龍馬から水晶玉を受けとったわ。
そして、真哉に見せつける。
微かに光り出す水晶玉が私と真哉の違いを示してくれたわ。
真哉とは違うのよ。
私はまだまだ成長できるのよ…って、あれ?
これって変よね?
再び疑問を感じてしまったわ。
どう考えてもおかしいわよね?
前回、水晶玉を持った時の光って赤くなかったっけ?
それなのに。
今はぼんやりとした黄色?
そんな感じだったわ。
さっきの龍馬にしてもそう。
以前は紫だったはずなのよ。
それなのに。
さっき見たときは緑がかってた気がするのわ。
どうして色が変わったの?
よくわからないわね…。
だけど今は光りの色がどうこうよりも。
水晶玉が『反応してる』こと自体が不自然に感じたのよ。
「ったく、翔子も反応しておきながら、俺は反応なしか」
呟く真哉を無視して、私は総魔に話しかけてみる。
「ねえ、総魔?」
振り向いてくれた総魔に質問することにしたわ。
「今、ふと思ったんだけど。なんでこれ光ってるの?」
自分でも質問の仕方がおかしいって思うけどね。
それ以外に言いようがないのよ。
だって私はすでに潜在能力に覚醒してるんだから。
水晶玉が潜在能力に反応すること自体がおかしいわよね?
そんな私の疑問を理解してくれたのか、
総魔は私の指輪に視線を向けてから説明してくれたわ。
「俺と翔子と御堂。それぞれに潜在能力があり、少なからずその能力に目覚めていることは確かだろう。だが、そこで終わりではないはずだ」
終わりじゃない?
「どういうこと?」
「簡単な話だ。俺達は現在『力を封印』している。この封印がある限り、決して完全とは言い難い。だからこそ、全ての封印を解除したうえで全ての能力を使いこなした時に初めて本当の意味で潜在能力に覚醒したと言えるはずだ」
本当の意味で、って総魔は言ったわ。
確かに封印してる力がある以上は全ての能力を使いこなせてるとは言えないかもしれないわね。
「だから、光の色が変わっちゃったの?」
「おそらくそうだ。俺の場合はまだ潜在能力が確定していないために光は変わらないが、翔子と御堂は変色していたからな。覚醒に必要な最後の一手が足りていないのだろう。」
あ~。
なるほどね。
私の融合にしても光属性が欠けてるわけだし、
本当の意味で総魔と同じアルテマを使えるわけじゃないわよね。
だとしたら、この指輪を外さないかぎりは永遠に答えに辿り着けないってことになるんじゃない?
「指輪を外した方がいいの?」
「それは翔子が判断することだ。」
相談してみたけれど、
どうもそういうことじゃないようね。
「現在の『力』を使いこなせていると思うならば外せばいい。だが、まだ早いと思うのなら、今ある力を極めることを考えればいい」
今の力を極める?
もちろんそれが大事なのは分かるわ。
ルーンが使えるようになっただけの今の私だと、
まだ極めるまでに至っていないでしょうしね。
自分でも思うくらいだから、今はまだ指輪を外すのは早いのかもしれないわ。
そんなふうに思いながら、
さりげなく龍馬に視線を向けてみると…。
「………。」
龍馬も私と同じことを考えてるようね。
指輪を外すそぶりは見せなかったわ。
だから現状維持。
それが私と龍馬の出した『答え』だったのよ。




