本気で思っているの?
クイーンキラーを犠牲にしながらも衝撃波を断ち切った冬月さんがホンの一瞬だけ動きを止めた瞬間に狙いを定めて。
「終之太刀、魔壊!!!」
一気に反撃に出た御堂先輩のとっておきの一撃が冬月さんのルーンを完全に粉砕して、
漆黒の刃を冬月さん自身にも届かせようとしていたわ。
「これで終わりだっ!!!!!」
闇には闇を。
光の力を押さえて闇の力を発揮する御堂先輩の攻撃は、
冬月さんの体を捉えて絶対に回避できない完璧な一太刀をあびせる…はずだったのに。
「…ふふっ。」
冬月さんは美しく妖艶に微笑んでいたわ。
コンマ数秒の時間で自分の体が斬られてしまうという窮地にいながらも、
微笑みを絶やさずに静かに右手を刃へ向けたのよ。
「何をしても無駄なのよ。」
「な…っ!?」
…そんな!?
…嘘でしょっ!?
絶対的な自信をもって漆黒の刃に右手を差し出した冬月さんは、
まるで何事もなかったかのようにあっさりと攻撃を受け止めてしまったのよ。
「くっ!?まさかこれでも通じないのか…っ?」
一瞬で歪む表情。
御堂先輩の焦りが離れた場所にいる私でも感じ取れた直後に。
「闇の力で私に勝てるなんて本気で思っているの?」
冬月さんはつかみ取ったルーンを握り潰すかのように容易く破壊してみせたわ。
「…ふふっ。残念ね。」
「………。」
哀れみにも似た想いを込めて御堂先輩と向き合う冬月さんは、
ルーンを破壊されたことで動揺をあらわにする御堂先輩を見つめながら淡々と話しかけていく。
「単純なルーンの力比べでは貴方が勝っていたようね。だけどそれは単に私がルーンにそれほど魔力を送り込んでいなかったというだけに過ぎないわ。」
「…っ!」
…根本的に違っていたのね。
御堂先輩とは違ってルーンに込めていた魔力の総量が違っていたのよ。
そのせいで小太刀が影響を受けていただけで、
実力そのものは負けてなかったみたい。
「そろそろ気付いたらどう?」
御堂先輩よりも優位な立場にいることを強く宣言する冬月さんは、
再びルーンを失ってしまった御堂先輩と向き合いながら改めてルーンを発動したわ。
「クイーンキラー。」
先程よりも多くの魔力を込めることで、
強烈な闇の気配を放つ漆黒の小太刀を作り上げたのよ。
「貴方の力と私の力を比較すれば、これでもう手詰まりでしょうね。」
御堂先輩の能力を確実に上回っていると判断した冬月さんは、
新たに作り上げた小太刀の刃を御堂先輩に向けたわ。
「貴方にはもう少し期待していたけれど、それでもこの程度が限界でしょうね。」
…先輩の、限界。
根本的な実力差があるから。
ルーンの性能がどうかなんて関係なくて。
御堂先輩の力では冬月さんには届かないということが証明されてしまったのよ。
…破壊できないルーンを作られてしまった以上。
本当に手のうちようがないわ。
…この状況から逆転する方法なんてあるの?
私には思い付かない。
…先輩。
御堂先輩はどうするの?
この劣勢の状況をどうやって覆すの?
シャイニングソードに続いてダークネスソードまで失った御堂先輩に選べる選択肢はそれほど多くはないはず。
…先輩。
あと一勝できれば全てが終わるのに。
ここで冬月さんを倒せば魔術大会の優勝を勝ち取ることが出来るのに。
…それなのに。
年間制覇達成まであと一歩というところで最大最強の障害に対峙してしまったのよ。
…こうなるともう。
御堂先輩の焦りや緊張感はきっと誰よりも大きいと思うわ。
…それでも、頑張ってください。
…ここで冬月さんを乗り越えて、彼の期待に応えてください。
今はただ祈ることしか出来ないけれど。
黙って試合を眺めていると。
「まだ終わったわけじゃないんだっ!」
御堂先輩は新たなルーンを発動したのよ。




