貴方の心臓を必ず貫く
「ふふっ。」
美しくも妖しい微笑み。
心の底から戦いを楽しんでいるかのような余裕を見せる冬月さんは、
ゆっくりとした仕草で右手にルーンを生み出したわ。
「今はクイーンキラーと呼んでいるけれど。貴方との戦いにおいてはキングキラーとでも名乗っておこうかしら?」
…ん~。
どうやら名前にはこだわりがないようね。
単にルーンの目的だけを明確に宣言する冬月さんは、
生み出したルーンを構えようともせずにホンの少しだけ歩みを進めたわ。
「もしも貴方が魔術師の頂点にいるとすれば、私が貴方を頂点という舞台から引きずり落ろしてあげるわ。」
…うわぁ。
どこまでも強気な態度ね。
緩やかな動きの中に絶対的な誇りと優雅な気品を感じさせつつ。
堂々と歩みを進めているわ。
「目指すべき最強の地位を手に入れるのは貴方ではなくて私よ。」
…ここまではっきり言えるのは凄いわね。
御堂先輩に対する恐怖なんて微塵も感じさせない冬月さんの度胸は、
心の底から尊敬したくなるほど凄いと思うのよ。
…冬月さんには怖いものなんてないのかしら?
どちらかと言えば私は臆病なほうだから、
わざわざ危険な相手に近付きたいとは思わないわ。
だけど冬月さんは無防備としか言えない歩みで御堂先輩との距離を縮めていくのよ。
「貴方に頂点は譲らないわ。だから最初に言っておいてあげるわね。」
「………。」
一歩一歩。
確実に御堂先輩との距離を縮めて行く冬月さんは、
あとホンの僅かな距離で御堂先輩に手が届くという近距離にまで接近してから。
「魔女がいつも陰に潜んでいるなんて、つまらないことを考えないことね。」
はっきりとした口調で正面からの戦いを宣言してきたのよ。
「貴方を純粋な力で制してあげるわ。」
それが冬月さんからの宣戦布告。
そしてそれが冬月さんの汚れなき誇りと誓い。
「御堂龍馬。貴方はここで朽ち果てるのよ。」
緩やかな動きで小太刀を持ち上げた冬月さんが、
真っ直ぐに腕を伸ばして御堂先輩の心臓に刃を向ける。
「私のルーンが貴方の心臓を必ず貫く。その結末を宣言しておいてあげるわ。」
「………。」
試合開始直後の勝利宣言。
その絶対的な自信を宣言する冬月さんと向き合う御堂先輩は、
ホンの数センチの距離でルーンの刃を向けられていながらも慌てたりせずに堂々とした態度で立ちはだかっていたわ。
「…凄い自信だね。それにきみの実力と誇り高き信念は僕も素直に認めるよ。だけど、一つだけ忘れないでほしい。」
「………。」
ホンの一呼吸の時間で心臓を貫かれかねない緊迫した状況の中でも、
御堂先輩は一歩も引かなかったのよ。
「魔術師の頂点に立つのは僕だ。他の誰でもなく、竜崎慶太やウィッチクイーンにさえ最強の地位は譲らない。それが僕の信念で、僕が選んだ道だから、この想いだけは決して誰にも譲れないんだ。」
…先輩。
「だからもしもきみが僕の道を遮るのなら、僕はきみも越えて見せるよ。」
冬月彩花さんだけではなくて。
竜崎慶太やウィッチクイーンにも最強の地位は譲らないと宣言した御堂先輩は、
これまで積み重ねてきた様々な想いを力に変えて唯一無二の形を作り上げたわ。
「シャイニングソード。僕の心を示す光の力で、きみの野望を消し去って見せる。」
闇を浄化する光の力。
その輝かしい力に想いを込めた御堂先輩もルーンの刃先を冬月さんに向けたのよ。
「これが僕からの宣告だ。」
心臓を狙う小太刀と交差する大剣。
冬月さんの心臓に狙いを定める刃が、
冬月さんの胸元を明るくまばゆく照らし出す。
「きみの信念を貫いてみせる。」
「…ふふっ。」
冬月さんの宣言に対して正面から応えた御堂先輩だけど。
そんな御堂先輩を見た冬月さんは、
お互いに刃を向けあいながらも楽しそうに微笑んでいたわ。
「面白いわね。」
お互いに覇気を剥き出しにしながら。
緊迫した雰囲気の中で楽しそうな笑顔を浮かべているのよ。
そのあとで御堂先輩の想いを認めてからゆっくりと刃を下ろしたわ。
「最後に相応しい心意気ね。だけど…貴方の光が私を貫けるかどうかを確かめさせてもらうわ。」
ただそれだけ。
それだけの言葉を告げたあとに。
『ズブ…ッ』と気味の悪い音を立てながら。
冬月さんは自らの意志で御堂先輩が向ける刃に自らの胸を押し付けていったのよ。




