優しい気配
…今のは、何?
意識が薄れていく中で。
ぼやける視界の片隅に見えたのは輝かしい光。
それはホンの一瞬の出来事だったけれど。
確かに光が見えたような気がしたのよ。
…矢島さんの闇の内部で、光なんて。
本来なら見えるはずがないわ。
漆黒の闇の内部では自分の姿さえも見えないのよ。
…それなのに。
光が見えた方角には、
何故か心が安らぐような優しい気配が存在しているの。
…そ、そんなっ!?
そんなはずはないわ。
そんなことは有り得ないのよ。
…なのに。
私の感覚は確実に何かを感じ取っていたわ。
…ど、どうしてっ!?
どうしてこんなにも心が安らいでしまうの?
どうしてこんなにも心が穏やかになれるの?
その答えは誰にも分からない。
私自身でさえも分からないから。
…だけど。
この想いだけは失いたくないと思える何かが確かに存在しているのよ。
…ね、ねえ。
…そこに、いるの?
期待してしまう心と疑いを感じる心。
二つの気持ちが交錯する中で、
私の意識は『その場所』に集中し始めてた。
…ねえ。
…貴方はそこにいるの?
ただ心の中で問い掛けることしか出来なかったけれど。
微かな光の先で。
彼が頷いてくれたような気がしたわ。




