汚染という意味
…い、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!
絶対に聞きたくないと思っていた言葉と肉を切り裂く異音。
突如として感じた背中の違和感が痛みに変わった瞬間に。
背中を刺されたことに気付いたわ。
「ぐっ…ぅぅ…っ!?」
闇の中でうずくまっていた私の背中に深々と突き刺さるのはポイズンナイフ。
矢島さんが握り締める小さなナイフが私の背中に突き刺さっているんだけど。
当然、彼女の攻撃はその程度で終わらないでしょうね。
ゆっくりと動き出す矢島さんの手。
彼女は突き刺したナイフを迷わずに動かして私の背中を切り開き始めたわ。
…う?
…あっ!?
「ああぁぁぁぁぁぁぁ~~~~っ!!!」
切り裂かれた傷口から生暖かい液体が溢れ出していくのが嫌でも分かる。
「うあ…ぁぁ…っ…!?」
言葉では言い表せないほどの痛みと苦しみ。
そんな地獄の苦しみの中で、
私はようやく自分の状況を理解したわ。
…背中を裂かれてるのっ!?
その事実に気付いた時にはすでに手遅れで、
『ズズッ…ズズッ…。』と肉が切り裂かれる音が肩の後ろから腰の辺りまで一直線に続いてた。
「くっ…ぅぅっ…!?」
麻酔も何も使わずに体を切開するのは地獄の苦しみだって聞いたことがある。
だから多分それは今のこの状況と同じなんだと思う。
…だけど。
この状況は手術なんて優しい扱いじゃなくて殺戮のための単なる解体。
その決定的な差によって私の心は確実に壊れつつあったわ。
…これが、汚染という意味なのねっ。
心を闇で支配する。
それが矢島さんの力で、闇を極める天才魔術師の本領だったのよ。
…ここで負ければ。
私は私でなくなるかもしれない。
…い、嫌ぁぁぁぁぁ!
…それだけは、絶対に嫌っ!!!
例え死んでも構わない。
試合に負けるのも仕方がない。
…だけど。
だけどこの心だけは。
この想いだけは。
誰にも踏みにじられたくないの。
…そんなの嫌っ!!!
痛みに負けて心が折れるような情けない結末だけは絶対に認めないわ。
…例えこの身が朽ち果てても!
この想いだけは永遠に貫いていたいのよ。
「私の心は…奪わせない…わ…!」
心は絶対に屈しない。
この命が在る限り。
絶対に心は屈しない。
「貴女の…力なんかに…汚染されたりは、しない…っ。私は…私よ…っ!」
力には屈しない。
恐怖に負けたりしない。
私は最期まで私を貫いて。
私の誇りを守り通す。
「この程度で…私に勝ったなんて…思わないで…よね…っ。」
動けない体でも必死に強がり続ける。
例え戦いには負けても、心だけは屈しない。
そんなふうに考えていたんだけど。
「…何も思っていません。私はただ…貴女を始末するだけです…。」
…っ!?
矢島さんは殺戮だけを宣言していたわ。
…な、何なのよ?
…この子は。
全身を駆け抜ける悪寒。
矢島さんの宣言によって体の芯から寒気を感じた瞬間に。
…!!??
矢島さんは手にしているナイフで、
『ドスッ』という異音を響かせながら私の左腕を切り落としたのよ。




