私だけ?
「…俺の相手が文塚乃絵瑠だと?」
小さな声でブツブツと呟く長野君の戸惑いからは完全に諜報失敗という雰囲気が出ているけれど。
長野君を咎める役目の芹澤さんと矢野さんは眠りについているから喧嘩になる心配はなさそうね。
…だけど。
長野君の不審な態度に気づいた御堂先輩は苦笑いを浮かべているわ。
「また調査していたのかい?」
「…あ、ああ。」
問い掛ける御堂先輩に対して、
長野君は無理に隠そうとはしなかったわ。
「俺が調べたわけじゃないんだが、姉貴からの情報提供でな。事前にカリーナの試合順を把握していたのは確かだ。だが…。」
「手に入れた情報と実際の試合順が異なっているんだね。」
「…ああ、そうだ。」
「ははっ。だったら仕方がないよ。」
「いやいや、笑い事じゃないだろ?」
「いや、これで良かったんだよ。ズルをして勝つのは好きじゃないし、正々堂々と戦って勝つことに意味があると思うからね。きみが得た情報が間違っているのならそれはそれで良いと思うよ。」
「…どうだろうな。冬月彩花ではなくて文塚乃絵瑠が出てきたのは喜ぶべき展開だと思うが、これが意図的な考えで試合順を変更してきたんだとすれば、カリーナは何かを企んでいることになるぞ。」
「うーん。それもそれで良いんじゃないかな?向こうも優勝を目指して作戦を立てているだろうし、それはどの学園でも同じことだよ。」
「それはそうだけどな…。だけど俺が悩んでいるのはそこじゃねえ。カリーナの計画がどうこうじゃなくて、姉貴が調査していることを見破って、対策をうってきたことを指摘してるんだ。」
…ああ、なるほど。
試合順がどうこうと言うよりも。
諜報活動をしていたウィッチクイーンに気付いて、
偽の情報を流すという行動に出た冬月彩花さん達の策略を危惧しているようね。
…確かに。
…ウィッチクイーンを騙したのだとしたらすごいことだと思うけど。
だけど。
…ウィッチクイーンがわざと嘘の情報を流した可能性も否定できない気がするのは私だけ?
長野君をからかうことに全力投球のお姉さんだからこそ、
偽の情報と分かっていながらもあえてそのまま伝えた可能性があるような気がするのよね。
…何が正しいのかしら?
答えはウィッチクイーン本人に確認してみないと分からないけれど。
とにかく現時点で長野君の情報が役に立たないというのは確かになるわ。
「とにかく戦うしかないですね。」
「ああ、そうだな。」
他に選択肢はないからまずは戦って勝つしかないのよ。
そんな私の考えに賛同してくれたのか、
長野君は一度だけ頷いてから試合場に向かって歩きだしたわ。




