ほぼ同等
時刻は午後0時20分。
決勝戦が始まってからまだ20分しか経っていないのに、
何故かすごく長い時間ここにいるような気がしてしまう。
…だけどまだ2試合しか終わってないなのよね。
これから3試合目が始まるんだけど。
ここからの試合は今まで以上に苦しい試合になってくるはずよ。
…長野君の予想では次の3試合目に冬月彩香さんが出てくるはずなのよね。
冬月彩花さんを相手にして長野君が勝てるのかどうか不安を感じてしまうわ。
…と言うか。
…冬月さんに勝てる人っているのかしら?
御堂先輩でさえもギリギリなんじゃないかなって思ってしまうのよ。
それくらいすごいと思う最強の魔女と試合をして引き分けに持ち込めるかどうかが年間制覇の命運を決めてしまうんだけど。
…どうなのかしらね?
どうしても不安を感じてしまうわ。
もしも次の試合で負けてしまえば、
その時点でジェノスの敗退が確定しまうことになるから絶対に負けられないのよ。
だけど冬月さんの実力は宮野あずささんや桜井麻美さんとは比べものにならないはず。
「大丈夫でしょうか…?」
どうしても拭いきれない小さな不安を呟いてみると。
「まあ、なるようになるだろ。」
矢野さんの体を抱き抱えながら待機所に戻ってきた長野君は苦笑いを浮かべながら答えてくれたわ。
「少し言い難い話になるが、正直に言って2連敗になるなんて思っていなかったからな。少なくとも里沙と百花のどちらかで1勝は出来るという予想で計画を立てていたから今の状況は想定外としか言いようがないのが実情だ。」
…ですよね。
ここまでの試合内容で2連敗という結果は、
長野君も予想していなかった予定外の状況だったらしいわ。
「次を落とせば敗退が決まってしまうんですよね?」
「ああ、だからこそ絶対に負けられない試合なんだが、次の3試合目には冬月彩花が出てくるはずだ。一応、最も重要な3試合目に主力を出すのが大会の定石だからな。」
………。
「勝てそうですか?」
「はっきり言って難しいだろうな。冬月彩花だけは他の魔女と格が違う。俺の実力では引き分けに持ち込むのが精一杯のはずだ。」
「長野君でも勝つのは難しいんですね…。」
「…まあな。ただ、お互いの相性だけを見れば俺も冬月彩花も似たような力をもっているから互角の戦いは出来るかもしれない…とは思っている。まあ、期待だけどな。」
「相性ですか?」
「俺もそうだが、冬月彩花も根本的な戦術は暗殺だ。わざわざ正面からぶつかりあって戦うような戦い方は基本的にはしないし、そんな正攻法よりも陰に徹しながら相手の隙を窺う戦闘技術が主体になるだろう。だとすれば俺と冬月彩花の暗殺技術は…おそらくほぼ同等のはずだ。」
「同等…ですか。」
「ああ、本気で殺しあうつもりで戦えば相打ち確定だろうな。」
「…そうするんですか?」
「他に選択肢がないからおそらくそうなるだろうな。だがまあ、だからと言って死にはしないだろ。内蔵をえぐり出された百花でさえ助かったんだからな。雪や栗原薫がいる限りはどんな結果になっても死にはしないはずだ。」
…そうかな?
体内の臓器をえぐり取られるという最悪の状況からも無事に助かった矢野さんを思えば確かに死ぬ可能性は低いと思うわ。
だけど本気で殺しあう戦いが展開されたとしたら、
落ち着いて眺めていることは出来ないと思うのよね。
「命懸けですよね…。」
「まあ、カリーナとの試合においては、どの試合でもそうなるんだけどな…。」
…確かに。
否定はできなかったわ。
だけど出来ることならそうはならないで欲しいのよ。
…もう少し健全な試合がしたいのよね。
命の奪い合いを前提とした殺伐とした試合ではなくて、
競技としての試合を期待してみたい…と、思うんだけど。
…無理でしょうね。
あまり期待できないと思ってしまったことで、
ため息を吐きたくなるほどの沈んだ気持ちを感じてしまったわ。
…それでも。
「続きまして決勝戦第3試合を始めたいと思います!!」
運命の時はきてしまうのよ。




