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THE WORLD  作者: SEASONS
5月14日
4311/4820

夢を捨てるのは簡単

「御堂先輩は間違っていません。」



…大丈夫です。



「この試合結果は仕方がないと思います。」


「仲間を傷付けることが、かい?」



…いえ。



「勝敗という決着をつけることが、です。」



戦場に立つ以上は傷付けあうのが当然で、

常にどちらか一方しか夢を実現することが出来ないからよ。



「お互いに一歩も退けない想いを抱いているからこそ戦ってるんじゃないんですか?ただ単に相手の学園に圧勝して自分達が傷付かなければそれで良いんですか?」


「い、いや、それは…。」


「私達が勝つということは相手を絶望に追い込むということです。そして相手が勝つということは私達が絶望に追い込まれるということです。」



それが戦いで、それが結果のはずよ。



「仮にこちらが全員が無事に勝てたとしても、対戦相手は苦しい思いをしているかもしれません。その事実を考えたことはありますか?」


「そ、それは…もちろん…。」


「だとしたら、今の御堂先輩の迷いこそが間違っています。これまでの大会で御堂先輩は一体どれほどの人達に絶望を与えてきたんですか?そして一体どれほどの人達の夢を奪ってきたんですか?」


「………。」



…忘れないでください。



「ジェノスが勝ち上がるということはそれ以外の学園が挫折するということです。」



そしてそれが今はカリーナが優勢でジェノスが挫折する側にいるだけです。



「御堂先輩がしてきたことは今も昔も同じで、過去の御堂先輩と同じ道をカリーナは進んでいるだけです。」


「それはつまり…優勝を目指して戦ってきたことが間違っているということかい?」



…いえ、違います。



「戦う以上、犠牲が出るのは当然だと言ってるんです。それがホンのちょっとした怪我なのか、命にかかわるほどの重体かは別としても、誰も傷付けずに勝ち上がることは出来ないということです。」


「それは…そうだけど…。」


「仲間が傷付くとか、敵が傷付くとか、そういうことで悩むのなら最初から戦うべきじゃないと思います。」



…だけどもしも。



「もしも本当にそんなことを考えているのなら、御堂先輩はもう天城総魔とは別の道を進んでいると思います。」


「総魔と…別の…?」



…はい。


…そうです。



「彼は誰かが傷付くことも、自分が傷付くことも受け入れて前に進んでいたのではないですか?そして自分の目的のために戦い続けたのではないですか?」


「そ、それは…。」


「それなのに、御堂先輩は仲間が倒れたからといって、これまで積み上げてきた夢を放棄するんですか?」


「………。」


「夢を捨てるのは簡単です。」



年間制覇の夢を諦めるのは簡単です。



「だけど夢を叶えるということはとても難しいんです。沢山の悲しみや沢山の苦しみを乗り越えなければ夢はつかみ取れないんです。」


「………。」


「御堂先輩はここで諦めてしまうんですか?それとも夢に向かって歩き続けるんですか?」


「僕は…」


「何かを守るために夢を捨てるとしたら、それが御堂先輩の終着点だと思います。」


「………。」


「このまま試合を続けるのか?それとも優勝を諦めるのか?それは御堂先輩が決めれば良いと思います。だけど…夢を捨てた御堂先輩にかけられる言葉はただの同情でしかありません。」


「…きみは厳しいね。」



…すみません。



だけどここで慣れ合うわけにはいかないんです。



「私は私の役目のためにここにいるつもりですので…。」


「鈴置さんの役目?」



…はい。



「あくまでも個人的な考えではありますけど。私は天城総魔や美袋翔子の代わりに御堂先輩を支えるつもりでここにいます。」



だから私は御堂先輩を甘やかそうとは思わないし。


妥協を認めようとも思わないわ。



「最終的にどうするかは御堂先輩に任せますけど。仲間が傷付くなんていう理由で夢を捨て去るようなら、私が御堂先輩に協力することはもう二度とないと思います。」


「…はっきりと言うんだね。」



…もちろんです。



「私にも理想がありますから。」


「きみの理想ってなんだい?」


「天城総魔です。」


「ふ、ふふっ。ははははっ。きみも総魔を尊敬しているんだね。」



…ええ。



「そうです。」


「そうか…。だったらもう止めるよ。」


「試合を…ですか?」


「いや、迷うことを…だよ。僕と同じ気持ちを抱くきみが歩き続けるのなら、僕も迷ってはいられないからね。みんなには申し訳ない気がするけど、もう少しだけ僕のわがままに付き合ってほしいと思うんだ。」



…それは、つまり。



「優勝を目指すんですね?」


「ああ、必ず優勝するよ。今は2敗という状況だけど、ここから必ず巻き返して見せる。」



…そうですか。



「御堂先輩がその気なら私は最後まで協力します。」


「ああ、頼むよ。1戦目と2戦目は落としたけど、まだ淳弥ときみと僕がいる。だからまだ勝負を諦めるのは早いんだ。」



…はい。



「ここから3連勝すれば、ジェノスが優勝できます。」


「ああ、そうだね。そのためにきみの力を貸してほしい。」



…もちろんです。



「御堂先輩の期待に応えられるように努力させていただきます。」


「ありがとう。」



…いえ。



あまり面と向かってお礼を言われると恥ずかしい気がするけれど。


これで御堂先輩は最後まで戦ってくれるはず。



…これで良いのよね?



空を見上げながら天城総魔に問い掛けてみるけれど。


当然、返事はないわ。



…まあ、返事は期待してないけどね。



死者の声は届かないからよ。



…そんな奇跡は求めないけれど。


…だけどあなたの代わりに御堂先輩を導いてみせるわ。



それが今の私の目的で天城総魔に捧げる誇りだから。



…必ず優勝してみせる。



心の中で誓いをたてながらゆっくりと試合場に視線を戻すと。


竜崎さんの活躍で矢野さんの治療は無事に終わった様子だったわ。


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