混沌の女王
栗原薫達によって急遽展開された結界が私の退路を遮り。
正面から迫りくるフェイ・ウォルカの攻撃が確実に直撃するはずの絶体絶命の窮地。
そんな危機的な状況の中でも私の勝利は揺るがないわ。
「シャドウ・ステップ!」
フェイ・ウォルカの影に転移した私は、
目前に迫っていた攻撃を回避してフェイ・ウォルカの背後に回り込んだからよ。
「…おやすみなさい。共和国軍の武神さん。」
フェイ・ウォルカの背後をとり。
ただ静かに別れの言葉を告げた直後にフェイ・ウォルカの背後からクイーンキラーを突き立てる。
「ぐっ!?あっ!?なっ!?」
…ふふっ。
自分の身に何が起きているのかが理解出来ていないようね。
困惑の表情を浮かべながら動きを止めてしまったフェイ・ウォルカは、
背後から心臓を一突きされるという突然の出来事によって口から血を吐きながら崩れ落ちていったわ。
…これで終わりよ。
フェイ・ウォルカの様子を眺めながら別れの言葉を告げてあげる。
「私は『混沌の女王』冬月彩花。その名前を心に刻みながら静かに眠りにつきなさい。」
「く…っ。馬鹿…な。一体…何をしたっ!?」
…あらあら?
「本当に分からなかったの?私はただ貴方の影に転移しただけよ。」
「転移…だと…っ?」
…ふふっ。
「魔女はいつだって神出鬼没なのよ。」
「そんな、馬鹿な…っ。空間を歪める転移など…。魔術で出来ることでは、ないはずだ…っ。」
…あら?
「不可能を可能にする。それが魔術でしょう?」
「有り得ん…っ。人が…人の身である限り…。越えられない限界が、あるはずだ…っ!」
…さあ?
「それはどうかしらね?」
「く…っ…。ついに…人の道を…踏み外したか…っ。」
…ふふっ。
「そうかもしれないわね。だけど…それも力よ。」
「バ、バケモノめ…っ。」
…ふふふっ。
「ありがとう。最高の褒め言葉よ。」
「くっ…!」
私の態度に対して悔しそうに表情を歪めるフェイ・ウォルカだけれど。
「だが、お前らしい…言葉…だな…。」
それでもフェイ・ウォルカは私という存在を認めていたわ。
「鬼と化してまで強さを求めるのか…?」
「それが私であるということよ。」
「ああ、潔い…覚悟だ…。」
…ふふっ。
振り返ることさえ出来ずに崩れ落ちてしまった哀れな姿を眺めながら微笑み続ける。
そんな私の足元で、
フェイ・ウォルカは私の暗殺を宣言してきたわ。
「次は…狩るぞ…。鬼と化した…お前を…。」
「貴方に出来るかしら?」
「…やってみせる。お前はもう…存在そのものが共和国の禁忌だ…。」
…ふふっ。
「そんなに褒めてくれなくてもいいのよ?」
「ふっ…。変わらないな…。その性格は…。どこまでも…お前は…お前と、いうことか…。」
…ええ、そうよ。
「だから楽しみにしておくわ。貴方が私の足元に届く日をね。」
「………。」
大地に倒れて。
手を伸ばすことさえ出来ずに復讐を誓うだけの男。
そんなフェイ・ウォルカの実力はすでに私の足元にも及ばないわ。
その事実が証明される形となって、
私達の戦いは決着を迎えたのよ。




