わざとかしら?
「引き分け、ご苦労様でした。」
「………。」
「大変でしたね。お体の具合はどうですか?」
乃絵瑠と向き合いながら無邪気な笑顔で労う麻美の優しい言葉の節々には、
何故か悪意が込められているような不穏な雰囲気を感じてしまうわ。
「さすがです先輩!傷だらけになりながらも魔力が尽きるまで戦い続けるなんて凄いですっ!」
「………。」
………。
全力で賞賛しているはずなのに。
何故か麻美の言葉にはそこはかとない違和感を感じてしまうのよ。
「結果なんて気にせずに、これからも頑張ってくださいっ!私は文塚先輩を応援してますからっ!!」
「………。」
…わざとかしら?
麻美の言葉は表向きには応援なのに。
裏を返せば結果が『ダメ』だと言っているのに等しい気がするのよ。
これはあえて遠回しに乃絵瑠を責めているのかしら?
それとも本気で乃絵瑠を応援しているのかしら?
その判断がつきにくい状況だったわ。
…だけどもしも本心で応援しているとすれば?
無邪気な笑顔と言葉で乃絵瑠のか弱い心を容赦なく踏み荒らしてえぐっているということになるわ。
…本当はどちらの性格が真実なのかしらね?
血を好む悪鬼としての性格が麻美の本性なのかしら?
それとも回りの目を気にして怯えた行動をとるのが麻美の本性なのかしら?
どちらが本当の麻美なのか今はまだ判断できないわ。
…だけど乃絵瑠の心をあっさりとえぐれる性格を考えれば。
麻美の性格は極めて『悪』に近いのかもしれないわね。
…ふふっ。
…こうなると乃絵瑠の心労はさらに増していくでしょうね。
私と奈々香と未来とあずさの面倒を見るだけでも心労の絶えない乃絵瑠が今後は麻美にも振り回されるとすれば?
…今以上に面白いことになりそうね。
周りに振り回されて頭を抱える乃絵瑠の姿を想像するだけで自然と笑いが込み上げてしまう。
…ふふっ。
…乃絵瑠はどこまで堪えられるのかしらね?
言葉の節々にトゲだらけの仲間達に囲まれながら乃絵瑠がどこまで頑張れるのか?
そんな歪んだ日常の中で一歩ずつ前へと進み続けようとする乃絵瑠の心労を思いながらも。
「そろそろ行くわよ。」
くだらない会話を打ち切った私は乃絵瑠達を引き連れて次の試合場に向かうことにしたのよ。




