子供じみている
…ふふっ。
…本当に変わった子ね。
私達の前から立ち去って行く栗原薫の後ろ姿を眺めながら考えてみる。
…一体、何を企んでいるのかしら?
栗原薫の企みを推測しようと考えたところで、
意識を取り戻して目覚めた乃絵瑠がようやく体を起こしたわ。
「…ぅ…っ?………。あ、あれ?ここ…は?」
まだ思考が追いつかずに戸惑うような表情を見せる乃絵瑠だけれど。
私達の存在に気づいたのか。
少し気まずそうな表情を浮かべながら立ち上がって私達全員の顔を順番に眺めていく。
「えっと~。その~。ごめんね。」
………。
大塚義明に勝てずに倒れてしまったことを素直に謝罪する乃絵瑠だけど。
「ぶざまな試合だったわね。」
私はあえて乃絵瑠の試合を批判したわ。
「負けなければ不敗という考え方は子供じみているとしか思えないわよ?」
「うぅ~。だって勝てそうになかったから仕方ないじゃない…。」
「それは乃絵瑠が未熟だからでしょう?麻美も奈々香も圧勝したって言うのに、乃絵瑠だけは引き分けなんて、恥ずかしいと思わないの?」
「うぅ…やっぱり奈々香は勝って私だけ勝てなかったのね…。」
「乃絵瑠の引き分けのせいで全勝記録は失われてしまったわ。」
「あうぅ…。」
…ふふっ。
追い込めば追い込むほど申し訳なさそうな表情を見せて落ち込んでいく。
そんな乃絵瑠が哀れだからこそ可愛く思えるのよ。
喜怒哀楽がはっきりとしている乃絵瑠の表情は見ているだけで十分なくらいに面白いわ。
…だけど。
乃絵瑠を襲う批判の言葉は私だけではとどまらないでしょうね。
「ホントに乃絵瑠はダメな子よね~。料理が出来ない時点で女として終わってるのに、戦闘の実力もイマイチって…良いところないじゃない。」
乃絵瑠の弱みを握った瞬間に徹底的に責める未来の性格もなかなかのものだと思うわ。
「対戦相手がどうこうなんて言い訳は見苦しからしないほうが良いわよ?」
「…うぅ~。」
「ぷぷぷっ。麻美も奈々香も圧勝で、彩花も完璧に勝ち抜けたのに、乃絵瑠だけは引き分けなんてマヌケすぎて笑いが止まらないわ。」
乃絵瑠を責めながら爆笑する未来の性格は私以上にひねくれているわね。
…ふふっ。
…本当に飽きないわ。
乃絵瑠を中心とした私達の繋がりは何度見ても飽きる気がしないのよ。
…これが私達の日常なのかもしれないわね。
くだらない世界の流れから完全に切り離されているかのような異端に満ちた独特の空気が心地好いと感じるのよ。
「ねえ、乃絵瑠。」
「ん?何…?」
まだまだ落ち込んだ表情で伏し目がちに私を見つめる乃絵瑠の可愛いげのある仕草を眺めながら声をかける。
「もっと強くなりなさい。これ以上の恥は許さないわよ。」
「う、うん。ごめんね、彩花。」
…ふふっ。
「過ぎたことはもういいわ。だけど次の試合でもぶざまな戦いを見せたら、その時はどうなるか分かるわよね?」
「…ぅ…っ。う、うん…まあ…一応。」
「だったら次は勝ちなさい。次からは勝利以外認めないわよ。」
「え、ええ。なんとかしてみるわ。」
私との会話によって少しずつ元気を取り戻してきた乃絵瑠だったけれど。
「文塚先輩。」
笑顔を浮かべる麻美が歩み寄っていく。
そして。
「引き分け、ご苦労様でした。」
乃絵瑠の心の傷口をやんわりとえぐり出したのよ。




