裏がある善意は
「まあ、色々と言いたいことはあるけどね。だけど貴女の考え方そのものを否定するつもりはないわ。」
………。
堂々とした態度で私達と向き合いながらたった一人で立ち塞がる少女。
この少女の名前は私も知っているわ。
…ふふっ。
「マールグリナの魔術医師が私達に何の用かしら?」
「ん~。まあ、一応その魔術医師として様子を見に来てあげたんだけどね。余計なお世話だって言うのなら大人しく立ち去るわ。」
…あらあら。
「随分と引き際が良いわね。貴女も私達を恐れているの?」
「ん?私が?貴女達を?あはははっ!ないない、それはない。悪いけど私は貴女達に怯えるほど可愛らしい性格じゃないのよね~。」
………。
「言ってくれるわね。」
「そう?まあ、別に喧嘩をしに来たわけじゃないし、言い争うつもりもないんだけどね。とりあえず必要なら文塚乃絵瑠さんの治療をするけど、どうする?迷惑だって言うなら何もしないけど。」
………。
…気に入らないわね。
「何を企んでいるの?」
「企むって言うか、次の試合に進むにあたって文塚さんの力は必要でしょ?一応このままだと文塚さんは身体的には復帰出来ても魔力が足りなくて試合には出られないわ。だからもし良ければ魔力の供給も含めてお手伝いさせてもらうけど…どうする?」
…私達の手伝い?
「そんなことをして一体貴女に何の意味があるのかしら?」
「意味っていうか…。魔術医師の一人として患者の治療をしたいと思うだけよ。」
…ふふっ。
…嘘ばっかり。
「本当は何か裏があるんでしょう?」
「ん~。まあなくはないけど、迷惑なら止めておくわ。あくまでも私は善意で来てるだけだしね。」
…善意?
…そんなものは存在しないわ。
「単なる偽善でしょう?裏がある善意は偽善と呼ぶのよ。」
「ん~?どうかしらね。正直に言えばどっちでも良いわ。」
…ふふっ。
「素直な言葉ね。」
「そうよ。私って正直な性格なの。」
………。
「どういう事情があるのかは知らないけれど、興味はないからどうでもいいわ。ただ、乃絵瑠に魔力の供給が出来るのならお願いしておこうかしら。」
「ええ、良いわよ。それと治療のついでに貴女達の魔力もまとめて回復してあげるわね。」
…?
…まとめて?
「ヘブン・オン・アース!」
たった一人で私達と向き合いながらも。
全く怖じけづく様子を見せずに私達の中心で足を止めた栗原薫は、
小範囲の結界を展開してから乃絵瑠の体の治療と同時に私や麻美や奈々香の魔力も全て供給してみせたのよ。




