暴発
…ふふっ。
…それが乃絵瑠の切り札なのね。
自らの限界を優に超えた力を生み出した乃絵瑠の魔術が発動した。
その瞬間に大塚義明のルーンが暴走して大塚義明の両手を吹き飛ばしたのよ。
「ぐぅぁぁっっっ!!!な、何をしたっ!?」
突然暴発したルーンによって両手を失った大塚義明が両腕を抱え込むような姿勢で地面に倒れ込む。
だけど乃絵瑠の攻撃はこれで終わったわけじゃないようね。
「まだ…よ。」
『ズバンッ!!!!』と激しい炸裂音を響かせながら大塚義明の背中が炸裂する。
そして激しい血飛沫が血まみれの試合場をさらなる鮮血で赤く染め上げていったわ。
「ぐっ!?ああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
突然起きた現象が理解できずに叫ぶ大塚義明だけど。
乃絵瑠が起こす絶望はこれでもまだ終わっていないようね。
…どこまで続くの?
『パンッ!!!』と何かが弾ける音が試合場に響いた直後に。
「ぐっ!?がああああっ!!!」
大塚義明の右足が弾け飛ぶ。
それでもまだ終わらない異音が響いた直後に左足も爆発を起こして、
広範囲に血飛沫を撒き散らしながら弾け飛んでしまったわ。
…これは何?
具体的に何が起きているのかは私でさえ理解出来ない。
だけど乃絵瑠が発動した魔術によって大塚義明の体が炸裂しているのは間違いないはずよ。
…一体、何を仕掛けたの?
私でさえ把握できない現象。
その答えを知るただ一人の人物である乃絵瑠に視線を向けてみると。
「………。」
………。
「………。」
乃絵瑠はすでに意識を失って試合場に倒れ込んでいたわ。
…魔術の発動と引き換えに倒れたのね。
だとすれば現時点で起きている現象が乃絵瑠の意志による攻撃ではないことは明らかよ。
…つまり、大塚義明を襲っている現象は魔術自体の効果ということかしら?
シールドを展開している審判員は影響を受けていないようだけれど。
魔術の直撃を受けている大塚義明の体は次々と炸裂して、
血と肉と砕けた骨を試合場に撒き散らし続けているわ。
…何が起きているの?
単純に考えれば結界の内部にいる敵を死滅させる魔術だと考えられなくもないけれど。
乃絵瑠の能力や性格を考慮すればそんな安易な答えではないはず。
単なる殺戮ではない別の理由があるような気がするわ。
「乃絵瑠は何を仕掛けたの?」
「…おそらく、暴発ではないでしょうか?」
実際に体験してみなければ正確な分析は出来ないと思ったものの。
どうやら麻美には思い当たることがあるようね。
「どういうこと?」
「えっと、そ、その~…。たぶんですけど。乃絵瑠さんの能力が森羅万象で、大塚義明さんを襲う現象が爆発だとすると…。乃絵瑠さんは大塚義明さんの能力を暴走させて自滅させているんじゃないかな…なんて、思ったんですけど…って、違ってたらすみませんっ。」
自分の推測に自信を持てずに即座に謝る麻美だけど。
その推測は私も納得できる理由だったわ。
…ふふっ。
「おそらく麻美の考えが正解でしょうね。そして、もしもその答えが正しければ…」
これから起こる現象が大塚義明をさらなる地獄へと突き落とすはずよ。
…ふふっ。
…大した才能ね。
「やっぱり乃絵瑠は『ただの凡人』ではなかったわね。」
覚醒した能力はまさしく魔女の力であり。
乃絵瑠の意志に反して残酷さが増してきているわ。
…残念ね、乃絵瑠。
「これで貴女も立派な魔女の仲間入りよ。」
もはや中立なんて言わせない。
「女王を巡る戦いに嫌でも参加してもらうわよ。」
これほどの惨劇を引き起こせる残酷な力を有している以上、
ウィッチクイーンの座を巡る最後の舞台に強制的に参加させる。
「長野紗耶香。矢島美咲。そして私と乃絵瑠。」
4人の魔女による女王争奪戦。
その決戦を楽しみに思う私の視線の先で、
『ボッ!』と現れた小さな炎が大塚義明の体から大量に溢れ出す。
「これで終わりね。」
大塚義明の爆の能力に続いて、炎の能力も暴走を始めたのよ。
「どうやら乃絵瑠は本当の意味で全ての力を操れるようになったようね。」
目に見える炎だけではなくて、
目に見えない衝撃まで操作できるようになったのよ。
その事実を考慮すれば、
乃絵瑠の能力は試合前よりも一段階成長したといえるでしょうね。
「残る課題は操作に必要な時間の短縮かしら?」
瓦礫の弾丸さえも自在に操れるようになれれば、
乃絵瑠を脅かす存在は全て排除されるはず。
「能力と精度の向上。それが出来れば乃絵瑠も女王の座に一歩近付けるでしょうね。」
まだまだ成長を始めたばかりの乃絵瑠には先の長い話でも。
諦めない限り。
いつかは必ず辿り着けるはずよ。
…ふふっ。
「早く追い掛けてきなさい。」
一日でも早く私がいる舞台へ。
そして私が目指す舞台へ。
「早くたどり着きなさい。」
今は倒れている乃絵瑠に期待を込める私の視界の端で急速に炎が拡大を始めたわ。
「さあ、決着がついたわね。」
静かに眺める試合場。
その戦場で。
暴走した炎の力が術者本人である大塚義明の体を一瞬にして飲み込んだいったのよ。




