全てお見通し
「全力で突破して見せるわ!」
真剣な表情を浮かべながら狙いを変えた乃絵瑠が3本の光の矢を放って上空のドラゴンに攻撃を開始する。
「まずは一撃っ!!さらに連撃っ!!!」
攻撃の直後に再び生み出す3本の光の矢。
合計6本の光の矢が上空へ放たれた直後に全ての光の矢が分散。
数千に拡散した光がドラゴンの体へと深く突き刺さっていく。
「これならどう!?」
「…無駄だ。」
ドラゴンに攻撃を仕掛けてからすぐに駆け出す乃絵瑠だけど。
大塚義明は慌てる様子もないまま冷静に乃絵瑠に狙いを定めていたわ。
「炎を貫くことなど出来はしない。」
「…う…ぅ…ぁ…あっ…!?」
はっきりと断言する大塚義明の直後。
乃絵瑠が上空へ視線を戻した瞬間にはすでに、
上空にいるドラゴンから炎の息が放たれようとしていたわ。
「こ、これは…死ぬ…っ!?」
回避は間に合わない。
防御も不可能。
足がすくんでしまって身動きが取れなくなってしまった乃絵瑠に灼熱の炎が降り注いでしまう。
「き、きゃあああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
炎の内部から響く悲鳴。
即死を思わせるほどの高威力の火力が試合場を赤く染め上げていく。
「どうした?もう終わりか?」
炎の影響を受けない大塚義明が乃絵瑠に話し掛ける。
「お前は結界を得意としていないようだな。審判員でさえシールドを展開しているというのに…お前はそれすら出来ないのだろう?」
…確かに。
補助系の魔術をあまり得意としていない乃絵瑠は、
大塚義明の指摘通り防御結界を展開出来なかったはずよ。
だけど、大塚義明は一つだけ思い違いをしているわ。
…乃絵瑠の実力はそういうことではないのよ。
防御結界が使えるかどうか?
攻撃魔術が得意かどうか?
そんな次元の考え方で乃絵瑠の実力は計れない。
…ねえ、そうでしょう?
…乃絵瑠。
激しく炎上している試合場にいる乃絵瑠に語りかけてみると。
「あららら…。やっぱり彩花は全てお見通しなのね~。」
乃絵瑠が気の抜けた声で答えたきたわ。
「実は炎自体はそれほど怖くなかったりするのよね。」
「なっ!?どういうことだ!?」
…ふふっ。
轟々と燃え盛る試合場の内部で断言する乃絵瑠に気付いた大塚義明に焦りが生まれる。
…やっぱりまだ分かっていないのね。
「ん~まあ、それが私の力っていう感じかしら?」
私の考えを肯定するかのように乃絵瑠はのんびりと答えていたわ。
「こういう言い方をすると失礼かもしれないけどね。だけど…。」
一旦言葉を区切った乃絵瑠が能力を解放して燃え盛る灼熱の炎を全て自らの両手に集める。
「実は私も炎の扱いが得意なのよね~。」
…あらあら。
…面白い言い方ね。
乃絵瑠は決して炎術師ではないわ。
炎に特化して極めたわけではないからよ。
だけどそれでも乃絵瑠は炎の扱いを得意としている。
…それなのにまだ。
…乃絵瑠は自分を凡人だと言い張るつもりなの?
「あ、あははは…。ま、まあ、ちょっとしたズルだけど…。私もね。他とは違った能力を持ってるのよ。」
…ふふっ。
乃絵瑠が隠し持つ能力。
それこそが非凡な才能であり、
私が乃絵瑠を天才の一人だと考える絶対的な証。
…森羅万象。
「森羅万象。」
私と乃絵瑠の思考が一致した直後に。
「貴方の炎を返してあげるわ!」
一点に集約した大塚義明の炎を上空に向けて打ち放つ。
「スター・レイン!!」
再び生み出した光の矢に紅蓮の炎を付加して打ち出す乃絵瑠の反撃が上空を飛翔していた精霊に直撃する。
「炎には炎を。」
同種の力を操ることによって、
巨大なレッドドラゴンを完膚なきまでに破壊し尽くしてみせたのよ。




