名前を背負う以上
「キラーピック。」
「………。」
落ち着いた態度で乃絵瑠と向き合いながらルーンを生み出した大塚義明の手に現れたのは複数の長くて太い針。
その針の一本一本には試合場を粉砕できるほどの即死級の破壊力があり。
射ぬいた対象を塵へと変える爆炎の能力を秘めている投てき武器でもあるわ。
…見た目は以前と同じでも、威力は桁違いでしょうね。
以前のルーンでも試合場を粉砕できたのよ。
その前提から考えれば、
今のルーンはかすめるだけでも致命傷になりかねないはず。
おそらく腕や足をかすめただけでもその部位は失われるでしょうし。
衝撃の余波だけで体が焼失する可能性も考慮できるわ。
…一撃必殺という意味では、間違いなく最上位に位置するルーンでしょうね。
「………。」
一撃で勝負が決まってしまう危険なルーンと向き合う乃絵瑠は、
絶望的な表情を浮かべながら語るべき言葉を失っていたわ。
…乃絵瑠。
もはや戦意喪失としか思えないぶざまな表情をみてしまったことで私も言葉をなくしてしまう状況の中で大塚義明がルーンを構えてしまう。
「一撃で全てが終わる。殺しはしないが、楽に負けられるなどとは思わないことだ。」
「うわぁ~。結構残酷な宣告ね…。」
大塚義明の宣告によって焦り始める乃絵瑠は、
どうあがいても攻撃が通じなさそうな相手に対して早々に敗北を受け入れようとしていたわ。
「も、もう…無理かも…。」
…はぁ。
…情けないわね。
今の乃絵瑠は見るに堪えないわ。
…だけどそれでも。
カリーナ女学園の名前を背負う以上、ぶざまな敗北は許さない。
…棄権は認めないわよ。
「………。」
心の中で釘を刺した瞬間に。
乃絵瑠は一瞬だけ助けを求めるような視線を向けてきたわ。
…ごめんなさいとでも言うつもり?
…そんなことで許すほど私は甘くないわよ。
「………。」
乃絵瑠の意図を汲み取ってさらに釘を刺すと、
再び乃絵瑠が私に視線を向けてくる。
………。
乃絵瑠が何を訴えたいのかなんて、
一々聞かなくても何となく分かるわ。
どうすればこの状況を打開できるのか?という方法を問い掛けているように感じられるからよ。
…どうすれば良いかなんて自分で考えなさい。
言葉にはせずに無言で応えたことで、
乃絵瑠は泣き出しそうな表情で私を見つめてから覚悟を決めて大塚義明に向き直ったわ。
…そう、それで良いのよ。
逃亡は許さない。
そして甘えも許さない。
…麻美でさえ戦いぬいたのよ。
…乃絵瑠も全力を尽くしなさい。
自分という殻を破って本性とも呼ぶべき真の力を発揮すること。
ただそれだけを待ち望んでいるの。
…例えどれほどの力を秘めていても使いこなせなければ意味がないわ。
…もっと自分の力を理解して自分の力を使いこなしなさい。
今の乃絵瑠に必要なことは自分の限界を理解すること。
そして限界を乗り越えるためにあらゆる努力を惜しまないこと。
…格好良く戦おうなんて考えないで、地べたをはいつくばってでも勝ち上がる意志を示しなさい。
強くなるために必要な条件は信念を貫く意志であり。
見栄や虚勢を捨てて前に歩み続ける意地や誇りを示すことにあるわ。
…負けても良いのよ。
…挫折しても良いの。
だけど逃げることだけは許さない。
戦いを諦めて潔く負けるなんていう自己防衛は認めないわ。
だから例え何度傷付いて倒れたとしても。
…決して失ってはいけない信念だけは最後まで貫き通しなさい。
一度でも逃げてしまえばもう二度と頂点は目指せないのよ。
…そして。
一度でも自分を甘やかせばもう二度と誇りは口にできないわ。
…だから逃亡だけは許さないわよ。
「………。」
負けを認めることだけは何があっても許さないと考える。
そんな私の想いが通じたのか。
乃絵瑠は振り返ることもせずに大塚義明と向き合ったままで小さく頷いていたわ。




