他人の生死に
「ただいまより第3試合を始めたいと思います!!!」
麻美が立ち去って成瀬智久も運び出された試合場。
今は審判員と大塚義明しかいな血まみれの試合場に乃絵瑠が向かう途中で、
係員が乃絵瑠に呼び掛けようとしていたわ。
「ヴァルセム精霊学園からは大塚義明選手!!そしてカリーナ女学園からは文塚乃絵瑠選手の登場です!!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」」」」」
「「「義明ぃぃぃ!!!!!!」」」
「「「乃絵瑠ちゃ~ん!!!!!」」」
「「「頑張れーー!!!!」」」
「「「負けるなーー!!!!!!!」」」
二人の名前が呼ばれた瞬間に一斉に沸き起こる数々の声援を浴びながら試合場に足を踏み込んだ乃絵瑠は今もまだ試合場に残っている惨劇の跡を目にしてから慌てて視線を逸らしていたわ。
「うわ~…。えぐすぎ…。これは予想以上かも…。」
離れた場所から見える光景と実際に現場に立って見る光景は予想とは異なっているようね。
…まあ、さすがに、ね。
心臓をえぐり取って血の雨を降らせた惨劇の跡ともなれば、
流れ出した血の量は即死級でしょうね。
…それでも栗原薫のような魔術医師がいれば、心臓の縫合くらいはたやすいでしょうけど。
死んでさえいなければ治療は間に合うはずよ。
…死んでいなければ、だけどね。
心臓を引き抜かれた成瀬智久が無事に助かるかどうかには少なからず疑問を感じてしまう。
…どうかしら?
助かるかどうかは分からない。
だけど助かる可能性は十分にあるはず。
…まあ、どちらにしても私には何の関係のない話ね。
成瀬智久が助かっても死を迎えても私には何の関係もないわ。
…そんな些細なことはどうでもいいのよ。
他人の生死に興味はないし。
今ここで重要なのは乃絵瑠がどこまで戦えるのか?という一点のみ。
…さあ、見せてもらうわよ。
乃絵瑠の成長も見届けようと思って静かに試合開始を待ち望んでいるのに。
「いよいよ正念場となってしまったヴァルセム精霊学園は、ここで連敗を食い止められるのでしょうか!?」
係員が試合を盛り上げようとして無駄な時間を浪費していく。
「カリーナ女学園にとっては4回戦へと駒を進める重要な一戦ですが、対するヴァルセムは学園最強の大塚義明選手です!!カリーナ女学園は見事に勝利を勝ち取って無敗神話を樹立するのか!?それともここで屈して敗北記録を一つ作ってしまうのか!?まさに意地と意地がぶつかり合う注目の一戦ですっ!!!!!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」
係員に煽られて歓声を轟かせる観客達。
盛大な歓声が振動を起こしてビリビリとした空気が周辺一帯に広がっていく。
…ふふっ。
…注目の一戦、ね。
確かにそうかもしれないわ。
だからこそ私も二人の試合の行く末を見届けようと思うのよ。
…ようやく乃絵瑠の出番。
決して普通ではない異端の力を示すために。
…さあ、思う存分暴れなさい。




