私の上にいるのは
「うわぁ…。やっぱり大塚義明が出てくるわけね。」
…ええ、そうね。
成瀬智久が運び出されたあとの試合場に立つ大塚義明の視線は私達ではなくて血だまりと化した試合場の一画を見つめているようだけど。
次の3試合目に参加する気でいるのは誰の目から見ても明らかだったわ。
「予想通り乃絵瑠と大塚義明の試合が確定ね。」
「うぅ~。出来れば予想が外れてほしかったんだけどね…。」
…ふふっ。
「ぐだぐだ言っていないでさっさと行ってきなさい。」
「勝てるかな…?」
「勝つのよ。」
「う~ん…。ちょっと自信がないんだけど?」
…そんなこと知らないわよ。
「負けたらお仕置きよ。」
「うわ…。それはちょっと…。」
…ふふっ。
「嫌ならちゃんと大塚義明に勝ってきなさい。カリーナの名前を背負う以上、敗北は認めないわよ。」
「結構…というか、かなり厳しい条件よね…?」
…あら、そう?
「乃絵瑠なら勝てると信じているから任せたのよ。」
「ああ、うん。期待はありがとう。でも、負けてもお仕置きはなしでお願いするわ。」
「それは乃絵瑠の態度次第ね。」
「うあぁ…。圧力がハンパないんだけど…?」
…うるさいわね。
「良いからさっさと行きなさい。」
「うぅ~。戦う前から精神的にきつい…。」
…はぁ。
大塚義明との試合が判明したことで急激に元気をなくしてしまったようね。
だけど。
「乃絵瑠さん…。頑張ってください。応援しています。」
「あ…うん。」
珍しく自分から話し掛けた奈々香の声援によって僅かに笑顔を取り戻していたわ。
「ありがとっ、奈々香。奈々香が応援してくれるだけで頑張れる気がするわ!」
「…い、いえっ。」
乃絵瑠の笑顔を見て俯いてしまう奈々香が可愛らしいわね。
珍しく戸惑っているような仕種を見せる奈々香が照れているのは私でも分かるからよ。
…ふふっ。
…仲が良いわね。
戦争に参加して以降、
乃絵瑠と奈々香は急速に仲が良くなっているように思えるわ。
…と言うよりも。
乃絵瑠が学園を離れて矢島美咲と関わってから、と言うべきかもしれないわね。
…そう言えば、どうしているのかしら?
どこにいるのかは不明だけど。
カリーナ女学園では伝説の魔女と呼ばれていて、
長野紗耶香と互角に戦える唯一の存在という噂は聞いているわ。
…おそらく私以上でしょうね。
今の私ではまだ矢島美咲には勝てないと思う。
もちろん長野紗耶香にも勝てないわ。
…私の上にいるのは二人の魔女。
矢島美咲と長野紗耶香。
その二人を越えない限り、
女王の名前は手に入れられないということよ。
…私にとっての最後の障害ね。
だけど同時に私が強くなるための最後の餌でもあるわ。
…ふふっ。
二人の魔女を制することで私は魔女の頂点に立てるのよ。
今はまだ届かないとしても、
いつか必ず乗り越えて見せるわ。
そうして二人の魔女を喰らって女王の名前を手に入れてみせる。
…全てを乗り越えて見せるわ。
全ての障害を乗り越える。
そのための第一歩として魔術大会を制するつもりよ。
…私が本気で戦うべき相手は御堂龍馬ただ一人。
決して八木真奈美ではないわ。
もちろん大塚義明でもない。
そしてこの先の試合で誰が立ちはだかるとしても私が本気をだすことはないでしょうね。
…だからこそ、ほぼ全ての試合を奈々香達に任せているのよ。
私が試合に参加するのはあくまでも3案以降の計画であり、
基本となる1案は奈々香とあずさと未来だけで勝利することが前提となっているわ。
…2案は麻美を初戦に配置することだけど。
その案が実行されることはおそらくもうないでしょうね。
…だから次に私が試合に出るのは。
予定では御堂龍馬との試合のみだけど。
…あるいはもう一度、かしらね。
大塚義明よりも上に立つもう一人の強敵が魔術大会を勝ち抜いている事実を考えれば、
御堂龍馬との決戦の前に試合に出る必要があるかもしれないわ。
…まあ、それは3回戦が終わってから考えるべきことよ。
次の試合に関してはまだどうでもいいわ。
…だから今は。
「乃絵瑠。」
乃絵瑠が大塚義明を倒せるかどうかが重要になるのよ。
「勝ってきなさい。」
「おっけ~!」
少し気楽な雰囲気を取り戻してから試合場に向かう乃絵瑠が最初の一歩を踏み出した瞬間に。
「それでは引き続き、第3回戦の第3試合を始めたいと思いますっ!!!!」
係員が試合の進行を開始したようね。




