運次第
そうしてたどり着いたのは第3検定試験会場だ。
図書室を離れてから十五分ほどで次の会場へたどり着いた俺達は迷わず受付へと向かったのだが、
ここでついに初歩的な問題に直面してしまうことになる。
「…どういう事だ?」
受付で受け取った名簿を眺めながら疑問の言葉を呟くと隣にいた翔子も生徒名簿を覗き込んできた。
そして全てを察したかのように小さく頷く。
「あ~。たまにはね。こういう事もあるのよ」
状況を理解した翔子が俺の手を引いて歩き始める。
そして検定会場を離れながら言葉を続ける。
「まあ、こういうのも運なのよね~」
運、か。
まあ、そうかもしれないな。
おそらく翔子が美春とすれ違っていたのと同様の理由だろう。
どの会場に向かったとしても平均して200人ほどの生徒達が集まっているが、
これはあくまでも平均であって多い時には多いが少ない時には当然少ないということになる。
会場に訪れた時間帯によっても人数は変わるのだが、
生徒達の気分やその日の天候によっても集合率はどんどん変わっていく。
そのせいで会場に行ってもまともな対戦相手がいないという事も時には有り得るようだ。
今回は120人ほどいたのだが、
どの生徒も俺が求めている番号より遥かに下の生徒達ばかりだった。
一気に2000番飛ばしを狙っているのにわずか数百番程度上では試合を行う気にもなれない。
そのためにどうするべきか思案していたのだが、
こちらの疑問を察した翔子は更に次の会場へと俺を連れて行った。
そうして新たにたどり着いたのは第2検定試験会場だ。
ここは今後の目的としている最上位の生徒達が集まる検定会場の一つ手前の会場になる。
「ここで勝ち抜ければようやく三桁台か」
「ええ、そうよ。だからひとまず最弱の生徒と戦ってみて、勝てそうなら最強の生徒を探してみたら?」
「ああ、そうだな」
この会場には100番から2000番までの生徒が集まっているらしい。
だからまずは2000番に近い生徒と対戦して無事に勝ち抜けられた場合。
次に100番に近い生徒と戦えば先ほど通り抜けただけの会場の生徒達の実力もおおよそ判断できるだろう。
「まずは小手調べだな」
翔子の助言を素直に受け入れてから、
受付で申請することにする。
「試合がしたい」
生徒手帳を出して試合の申請をしようとしたところで。
「あの…」
受付の担当者が何か言おうとしたのだが。
「何か文句でもあるの?」
その前に翔子が言葉を遮った。
威圧感を込めて問いかけた翔子に、
受付の男性は開きかけた口を閉じて黙って名簿を差し出した。
決して翔子に怯えているわけではないだろう。
どちらかと言えば面倒事を嫌がっているように見える。
まあ、わざわざ言い争いをする必要はないだろうからな。
賢い選択だとは思う。
それに彼が言いたかったことは、
もはや聞かなくても分かることだ。
この会場は100番から2000番の生徒が集まる会場だからな。
本来なら4000程度の俺が来るような場所ではないだろう。
そこを指摘しようとした係員よりも先に、
余計な水をさすなと言わんばかりに翔子が釘をさしたのだ。
翔子には翔子の目的があるからこその行動なのだが、
つまらない説得を聞くよりも話が早く進むのはこちらにとっても有り難い。
ひとまず話を進めるべきだろう。
翔子と係員のにらみ合いを見ていても仕方がないからな。
さっさと試合相手を探すことにする。
「この生徒とは試合ができるか?」
手始めに対戦相手として選んだのは生徒番号1988番の工藤美弥子だ。
会場内で最下位の生徒を選んだせいか、
係員は満足そうに小さく頷いてから手続きを始めた。
「試合の手続きをさせていただきますので、Bー3番の試合場へお向かい下さい」
指定された試合場に向かうために俺達は受付を離れた。




