呪い返し
…ふふっ。
「何か言い残すことはあるかしら?もしもあるのなら聞くだけ聞いてあげてもいいわよ?」
「…な、何を…したの…っ!?」
悔しさに表情を染める八木真奈美に話し掛けてみたことで、
彼女は最後まで憎悪のこもった冷徹な瞳で私を睨みつけてくれていたわ。
「どうして…っ!!!」
どうして自らの魔術で自らが倒れたのか?
その理由が理解できずに戸惑い続ける八木真奈美の姿は何度見ても哀れにしか思えない。
…ふふっ。
「まだ分からないの?」
もうすでに言い飽きるくらい伝えたはずなのに。
「貴女はまだ自分の弱さに気づいていないのね。」
「ふ、ふざけ…っ!!!」
「別にふざけているわけじゃないわ。」
ただ真実を告げているだけ。
そして貴女の弱さを指摘しているだけなのよ。
「…でもまあ、それでもまだ納得出来ないのなら教えてあげるわ。」
どうして自分が負けたのかをいまだに理解出来ない彼女のために。
事実だけを宣言してあげる。
「貴女の力をそのまま貴女に返しただけよ。」
「………。」
「これでもまだ分からないのなら、貴女にでも解るように説明してあげましょうか?」
「………。」
痛みに苦しむ八木真奈美がどこまで気力を維持できるのか多少疑問はあるものの。
意識が残っている間に敗北の理由を伝えてあげることにしたわ。
「かつてウィッチクイーンと戦った時のことは覚えているかしら?」
20人の戦力でありとあらゆる攻撃を仕掛けたあの日のことよ。
「それが…何…っ!?」
「異常だとは思わなかったの?どんな攻撃も通じない女王の実力が異常だとは思わなかったかしら?」
「だから…それが…何なのよっ!」
あの日と同じことよ。
「私は貴女の魔術を跳ね返しただけよ。」
「だから、どうやって…っ!?」
「人を呪わば穴二つ。」
呪いの力は時として術者自身を破滅に導きかねない両刃の剣となる。
「それがどういう意味なのかはもう…解るわよね?」
「ま、まさか…?呪い返し?」
…正解。
「そういうことよ。魔女なら…いえ、魔女の女王なら、その程度は出来て当然でしょう?」
女王としての資質を持つ者なら呪い返しは出来て当然。
「だから…。」
だからあえてもう一度だけ言っておいてあげるわ。
「私は魔女の頂点に立つ女よ。その格の違いをしっかりと認識しなさい。駆け出し魔女さん。」
「…く…っ!!」
私の宣告を聞いて苦々しげな表情を浮かべる八木真奈美だけど。
魔力を使い果たして重傷を負った体では私に触れることさえ出来ないわ。
「これが貴女と私の実力差よ。」
当初の宣言通り私は円から動かなかった。
そもそも開始線から一歩も動いていないけれど。
八木真奈美は私を円の内部から弾き出すことが出来なかったのよ。
「貴女が私に勝つためには、もっとおまけが必要だったようね。」
「………。」
結果的に何も出来ないまま敗北を迎える八木真奈美。
その哀れな挑戦者をしっかりと見つめながら。
「貴女の負けよ。」
八木真奈美の敗北を宣言してあげたわ。




