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THE WORLD  作者: SEASONS
5月14日
4192/4820

殺意で人は

「ゴー・トゥー・ヘル!!!!」


「…ぐあああああああああああああああっ!!!!!!!!!」



…え?



頭上高くに掲げた杖に多くの魔力を込めて力を解放した八木真奈美の魔術が試合場全域を包み込んだ直後に、

突如として審判員が試合場に倒れ込んだのよ。



…何?


…何が起きたの?



「…ぅ。く…っ!?」



突然倒れた審判員に疑問を感じて即座に状況を把握しようとした矢先に、

私の体にも異変が起き始めたわ。



…これはっ?



私の体に何が起きているのか?


ホンの一瞬だけ思考を巡らせて八木真奈美の魔術を分析してみたことで、

魔術の効力に関する疑問点は即座に理解できたわ。



…ふふっ。


…そういうことなのね。



「少しは成長したようね。見直したわ。」



単なる雑魚ではなくて見直すべき価値のある雑魚。


そんなふうに考えながら一度だけ手を振った私は、

八木真奈美の魔術を反転して本人に魔術を跳ね返してあげたわ。



「自らの魔術を受けなさい。」


「な…ぁ…っ!?」



まだ開始線から一歩も動いていない状況でのささやかな反撃。


反転した魔術が術者本人である八木真奈美の体を飲み込んで、

増加された重力が彼女の体を試合場へと押さえ付けてしまう。



「きゃぁぁぁぁぁっ!!!!!!」



…あらあら。



「もう終わりかしら?だとしたら残念ね。」


「く…っ…!!まさか魔術を跳ね返せるなんて…っ!!」



自らの魔術で倒れ込んだ八木真奈美を見つめながら、

どんな反論をしてくれるのか楽しみにして待ち侘びていると。


自らを押さえ付ける魔術を解除した八木真奈美は、

苦々しげな表情を浮かべながら杖を支えにして立ち上がったわ。



「まさか貴女にそんな力があるなんて思っていなかったわ…。」



…ふふっ。



「仮にも魔女の女王がこの程度のことさえ出来ないと思っていたの?」



…だとしたら。



「私の力を見誤っているわね。」


「………。」



黙り込んでしまった八木真奈美は返す言葉もないままじっと私を睨みつけてくる。



「…ああ、でも、そうね。」



あえて確認のために言っておこうかしら?



「殺意で人は殺せないわよ?」


「…ふんっ!!!」



私の指摘に対して不満だけを感じさせる八木真奈美は、

どんな忠告にも耳を貸さずに再び魔術を展開し始めたわ。



「どういう理由で魔術を跳ね返したのかは知らないけど!その余裕の笑みを崩してあげるわっ!!」



新たな魔術を展開して即座に魔術を完成させた直後に。



「イーグルっ!!!!!」



完成した魔術と同時に精霊を召喚することで2種類の力を同時に解放してきたわ。



「エンドレス・ショット!!!」



…あらあら。



生み出した鳥の精霊に対して魔術を発動させることで特殊な能力を付加したようね。


『ヒュッ!!!』と勢いよく風を切りながら試合場を飛び回る精霊が私の耳元で小さな飛翔音を響かせているわ。



そして飛翔音の直後に私の頬を浅く切り裂いて僅かに血をにじませてくれたのよ。



…ふふっ。



「大した速度ね。さすがにこの動きは私でも厄介だと思うわ。」


「ふんっ!!この程度で終わりだなんて思わないでよねっ!!」



微かに切り裂かれた頬の痛みを心地好く感じつつも八木真奈美の次の一手を眺めていると。


彼女は飛翔させ続けている精霊を巧みに操りながら次々と私の体を切り刻み始める。



…なるほど。



高速化した精霊によって私の体を切り刻んでいく八木真奈美の技術と魔術の精度は以前よりも遥かに向上しているわ。



…ふふっ。



「それなりに成長したようね。」



着々と切り刻まれていく体。


そして徐々に血に染まる制服。


漆黒に赤みが加わったことで、

まるで血の雨を浴びたかのように彩られていく制服に一度だけ視線を向けてみたけれど。



私としては美しさを感じるだけでしかなかったわ。



…ふふっ。


…どうして血の色はこんなにも綺麗なのかしらね。



「貴女はどう思うかしら?貴女は血の色が素敵な色だとは思わない?」


「…うわ。気持ち悪いわね。血を見て興奮するなんて、狂ってるんじゃないの?」



…あら?


…狂ってる?



「この私が?」


「ええ、そうよっ!!他に誰がいるのよ!?」



…ふふっ。


…そうね。


…そうかもしれないわね。



「きっと私は狂っているのでしょうね。」



自分でもそう思うし。


それで良いと思っているわ。



「だけど…貴女はどうなのかしら?」


「はぁっ!?悪いけど私を貴女と一緒になんてしないで!!」



…あら、残念ね。



「一緒だとは言わないけれど。私から見れば…貴女も十分に狂っているわよ?」


「なっ!!??」


「憎悪に身を委ねて、殺意を込めて、攻撃魔術を操る貴女が狂っていない?…だとすれば、この世界はとても素晴らしい世界と言えるでしょうね。」


「………。」



憎しみを肯定して殺戮を認め合う世界なんて。



…ふふっ。



「とても素敵な世界よね。」


「…くっ!!」



…あら?



「何か反論でもあるのかしら?」


「…う、うるさいっ!」



…あらあら。



「貴女はまたそうやって現実から目を背けるのね。」


「うるさいって言ってるでしょ!!!」



…ふふっ。



「私はどちらでも構わないのよ?」



貴女が狂っていようとも、狂っていなくても。



「どちらであってもね。」


「だから、うるさいって言ってるでしょっ!!!!」



私の指摘に反論できずにただただ暴力によって私を叩き付せようとする八木真奈美だけど。


そんな彼女の攻撃をいつまでも受けてあげるほど私は善良な人間じゃないわ。



「もう結果は出たわね。」



私を切り刻む程度の攻撃しか出来ない彼女の実力では、

私を足元の円から追い出すことさえ出来ないわ。



「貴女の出番はここまでよ。」


「う、うるさいっ!!!!!!!!」



精神的に追い込まれながらも必死に攻撃を続行する八木真奈美だけど。


ただ単純に精霊をぶつけることしかできない単調な攻撃では、

どう足掻いても私を越えることは出来ないわ。



「貴女の成長は認めてあげるわ。以前よりも確かに強くなったようね。」



…だけど。



「それでもまだ私と貴女では次元が違うのよ。」



私が立つべき舞台は女王を巡る戦い。


だけど八木真奈美が立つ舞台は憎悪を撒き散らすだけの子供じみた戦いでしかないわ。



その決定的な差が私と八木真奈美の実力を大きく分け隔てているのよ。



「もう諦めなさい。今の貴女では私には勝てないわ。」



勝敗はすでに決してる。


そしてその事実を示すために。



「遊びはもう終わりよ。」



高速で飛翔し続けている八木真奈美の精霊をしっかりとつかみ取ってみせたわ。


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