心地好い空気
…さて、と。
午前8時を迎える頃。
ひとまず私達は3回戦が行われる試合場に移動したわ。
…ふふっ。
試合場に着くと同時に笑みをこぼしてしまう。
…心地好い空気ね。
張り詰めた緊張感が漂っている。
凜とした冷たい空気が試合場を包み込んでいるのが感じられるのよ。
…ふふっ。
ずっと待っていたわ。
…ずっとこういう空気を求めていたのよ。
殺伐とも呼ぶべき重苦しい空気。
そして重圧的な緊張感が漂う目の前の試合場からは、
まるでここが戦場と思えるほどの狂気や殺気を感じさせてくれるわ。
それに。
…あらあら。
…私を呼んでいるのね。
これから3回戦が行われる試合場に立つ人物が真っ直ぐに私だけを見つめているのよ。
「そうまでして私と戦いたかったの?」
明らかな敵意を示しながら私への殺意を抱く彼女を見ていると。
哀れみさえ感じてしまうわ。
…ふふっ。
…馬鹿な子ね。
「本気で私に勝てると思っているの?」
そっと語りかけてみるけれど。
彼女は何も答えない。
ただ静かに口を閉ざして、
私が試合場に上がることだけを待ち望んでいるのよ。
…そう。
…だったら良いわ。
「その挑戦を受けてあげるわね。」
私と戦うためだけに試合場に立っている彼女の挑戦をわざわざ避ける理由なんてないわ。
「どちらが上かを教えてあげるわよ。」
私への殺意を抱く彼女に現実を示すために。
今回は私が試合場に向かうことにする。
「それじゃあ、乃絵瑠。今日の試合順は3案に移行よ。文句はないわね?」
「え?あ~、うん。3案ね。私は何でも良いけど、それで良いの?」
「ええ、特に問題はないわ。乃絵瑠さえ負けなければ、ね。」
「そこが一番重要な部分なんだけど…?」
「自分で何とかしなさい。」
「…はぁ。分かったわよ。とりあえず試合順は係員に提出しておくわね。」
「ええ、乃絵瑠に任せるわ。」
細かい雑務はどうでも良いのよ。
今回の試合において重要なのは試合場に立つ彼女を制することと。
麻美の実力を計ることのみ。
それ以外の試合は全て消化試合でしかないわ。
「敗北は許さないわよ?」
「あ、あははは…っ。その時はごめんね。」
…ふふっ。
あえて念を押してから試合場へと歩き出したことで、
乃絵瑠は苦笑いを浮かべながら申し訳なさそうに頭を下げていたわ。
…まあ、努力はしなさい。
無理に責めるつもりはないから。
乃絵瑠は乃絵瑠なりに戦えばそれで良いのよ。
「あとは任せるわね。」
ひとまず乃絵瑠にこの場を任せることにして、
私は試合場に上がることにしたわ。




