誰の目から見ても
…そんなことよりも。
未来の考え方がどうこうよりも。
「…おはようございます。」
聞き取ることが難しいくらい小さな声で話し掛けてきた、もう一人の仲間に振り返ることにしたわ。
「おはよう奈々香。今日も静かな目覚めね。」
扉の開閉音さえ感じさせなかった奈々香の隠密能力は私でさえ感じ取れない時があるほど日々進化を遂げているわ。
「いつも以上に静かだったけれど。昨日は良く眠れたのかしら?」
「………。」
物静かな表情からは何も読み取れないわね。
それでも奈々香に昨日の試合の疲れがないかを確認してみたことで。
「…問題ありません。」
一切の感情を感じさせない事務的な口調で答えてくれたのよ。
そしてその直後に。
「………。」
口を固く閉ざして何も喋らなくなってしまったわね。
…奈々香も相変わらずね。
無駄に元気な未来とは正反対で、
陰湿な雰囲気を撒き散らしながらゆっくりと無言で歩みを進めてくる。
今日に限らずに普段からほとんど話をしない奈々香は、
基本的に人との接触を避けるように行動しているように見えるわ。
…なのに。
何故か乃絵瑠にだけは懐いていて甘えるような仕種で寄り添っているのよ。
…良く分からない子ね。
奈々香の行動は私にも良く分からない。
…だけど。
乃絵瑠のことが好きなのは誰の目から見ても明らかよね。
「おはようございます…。乃絵瑠さん。」
「おはよう奈々香。」
呟くような小声で乃絵瑠に話し掛ける奈々香に対して、
乃絵瑠はまるで保護者のような口調で語りかけているわ。
「昨日はちゃんと眠れた?もう眠くない?」
「…私は平気です。乃絵瑠さんこそ…ちゃんと眠れましたか?」
私に対しては一言しか話さないのに。
相手が乃絵瑠の場合だけは普通に話をしているのよ。
…それでも聞き取りにくいほどの声なのは変わらないけれど。
ホンの少し距離をとるだけで奈々香の声は聞き取れなくなってしまうわ。
それくらい小さな声で話す奈々香だけれど。
それでも乃絵瑠は奈々香の声を聞き漏らさないようね。
「ん~。それがさ~。色々と考え事をしてたから、結局眠れなかったのよね~。」
苦笑いを浮かべながらも包み隠さずに正直に話す乃絵瑠を奈々香が心配そうに見つめてる。
「…大丈夫ですか?」
「あ~、うん。多分、平気…って言うか、逆に目が覚めて絶好調?まあ自分でも良く分からないけど、とりあえず今は心配しなくても大丈夫よ。」
「…そうですか」
乃絵瑠が心配ないと告げたことで普段通りの表情に戻る奈々香。
そんな二人の会話を静かに見守っていると。
「お姉様ぁぁぁぁっ♪♪♪♪」
突然、扉を開け放って自室から飛び出してきた4人目の仲間が全力で私の背中に抱き着いてきたわ。




