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THE WORLD  作者: SEASONS
5月14日
4172/4820

分かっていた

…分かっていたよ。



ずっとこうなると思っていた。


僕が弱音を吐けばみんなが僕を見限ると分かっていたんだ。



…だから。



だから僕は。



…ずっと言えなかったんだ。



本当の気持ちは誰にも言えなかった。



こんなふうに呆れられるのが怖くて。


みんなに見捨てられるのが怖くて。


ただただ恐怖に堪え続けるしかなかったんだ。



「…だけど、結局…。」



結局、僕は一人になった。



仲間達に見捨てられて。


居場所を失ったんだ。



「これが…現実です。」



泣き叫ぶしかできない僕が最後に手にしたのは永遠の孤独。



「これが…。」


「…そうだな。これが現実だ。」



僕を取り巻く真実だと宣言しようとしたんだけど、

桐島さんが僕の言葉を遮ってしまった。


そしてとても穏やかな笑顔を浮かべながら微笑み続けてくれたんだ。



「きみには見えないか?」



…えっ?



「きみはまだ気付かないのか?」



…何を?



何に気付けというのだろうか?



その意味に戸惑いながらも、

もう一度会場全体を見渡してみると。



…みんな?



誰もが僕を見つめてくれていることに気付けたんだ。



決して僕を見下したりはせずに。


誰もが真剣な表情で僕を見守ってくれていた。



「…どうして?」


「どうしてだと?もうそろそろ気付いても良い頃だろう?ここに集まっている者達はきみという人間を信じているんだ。例えどれほど情けない姿をさらそうとも、再び立ち上がる瞬間を信じているからだ。」


「立ち上がる?」


「ああ、そうだ。もう一度世界を見渡してみろ。そして…もう一度考えるんだ。この場にいる者達はきみを見捨てるような人間か?それともきみを信じ抜く人間か?」



………。



真実は誰にも分からない。


だけど桐島さんの言葉は僕にとって真実に思えた気がした。



…まだ。


…終わっていないのかな?



シェリルも。


杞憂さんも。


唯王女も。



康平も。


筑紫さんも。


那岐さんも。


菊地君も。



御堂龍馬も。


栗原薫さんも。



そして進藤学園長も。


米倉元代表も。



学園の仲間達やここにいる全ての人達。


その全ての人達が、歎いてばかりの愚かな僕を見守り続けてくれているんだ。



…僕はまだ。


…必要とされているのかな?



人生の敗者と感じたのは考えすぎだったのだろうか?



「僕は…僕はまだ必要ですか?」



誰にともなく問い掛けてみた言葉なんだけど。



「当たり前じゃない」。



シェリルがはっきりと答えてくれたんだ。



そして。



「お前の弱さくらい昔から知っているさ。だからそんなくだらない質問は止めろ。俺達は…親友だろう?」



…っ!?


…康平っ!!



一番の親友の康平の言葉が何よりも嬉しかった。



「私は澤木君を尊敬しているわ。実力がどうとか才能がどうとか、そんな小さなことじゃなくて、澤木君自身を尊敬しているの。だから…だから私は…」



とても恥ずかしそうな仕種で少し俯きながら語りかけてくれる筑紫さんは。



「私は澤木君が好きよ。」



少し小さな声で囁いてから優しく優しく微笑んでくれていた。



「泣いていたって、落ち込んでいたって、私達にとって澤木君は特別な存在なの。とても大切な仲間でたった一人のかけがえのない存在なのよ。だから、それだけは忘れないでね。」



…筑紫さんっ。



筑紫さんの言葉も僕の壊れた心を癒してくれたんだ。



…ありがとう。



康平と筑紫さんの言葉が僕に安らぎを与えてくれている。



それに。



「まあまあ人それぞれ悩みはあるんじゃない?って、私はあんまりないけどね~。あははっ!」



少し照れながら苦笑いを浮かべる那岐さんも僕を応援してくれていた。



「別に負けたって良いじゃない。私だって美優や澤木君に勝てないし。怖いって思うことは数え切れないくらいあるわよ。だけどそれってみんな同じじゃない?澤木君だけがダメなわけじゃなくて、みんな何かに怯えて生きてるんじゃないかしら?まあ、多分だけどね…。」



…那岐さん。



那岐さんの言葉はもっともだと思う。


誰にだって怖いものはあるし。


逃げ出したくなることもあるはずだ。



「だったら僕は…泣いても良いのかな?」



そんなふうに聞いてみると。



「ははっ。良いんじゃないかな?」



菊地君も僕を認めてくれていた。



「僕も泣きたいことは沢山あるからね。悔しいと思うことや情けないと思うことは星の数くらいあるよ。だから、きみも泣いて良いんじゃないかな。」



…ああ、そうだね。



「…ありがとう。」



大切な仲間達からの言葉。


それらが僕に確かな勇気を与えてくれていた。



「みんな…ありがとう。」



みんなのおかげで心が救われた気がするんだ。



「最初から…最初からこうしていれば良かったんだね。」



無理に強がらずに仲間に頼ればよかったんだ。


そんな当たり前のことを今になって気付いてしまった。



「ありがとう。」



とめどない感謝の気持ちを涙を拭いながら呟いたことで。



「さっさと帰って来い。」


「これからもよろしくね。」


「お礼なんて良いわよ~。」


「仲間だからな。」



みんなが笑顔を向けてくれたんだ。



そして。



「…ったく、本当にこの馬鹿は…もう十分すぎるくらい幸せじゃないのよ。こんなにも幸せなのに、まだ物足りないって言うの?」



シェリルは僕を諭すかのようにとても優しく話しかけてくれたんだ。



「京一にはまだまだ沢山の幸せがあるでしょ?」



…ああ。



「そうだね。」


「もう十分じゃない?」



…かもしれないね。



「それなのにまだ不満があるって言うの?」



…いや、不満なんてないよ。



「だけど…。」


「だけど何よ?」



…僕は。



「僕はシェリルが欲しいんだ。」


「…っ!?」



僕が僕の想いを打ち明けた瞬間に、

シェリルの心が確かに揺らいだ気がした。



「ば、馬鹿じゃないのっ!?京一ごときが…って、そうじゃなくて…京一には…っ!」


「ははっ。分かってるよ。」



珍しくあわてふためくシェリルの仕種があまりにも可愛らしくて、

なんだか凄く幸せな気持ちになれたんだ。



「ねえ、シェリル。」


「な、何よ…っ?」


「僕はシェリルが好きなんだ。」


「…だ、だから…っ?」


「ずっと、ずっとシェリルが欲しいと思っていたんだよ。」


「ちょっ!ば、馬鹿言ってるんじゃないわよっ!」


「…うん、そうだね。自分でも馬鹿だと思うよ。どうしてもっと早くシェリルに告白しなかったのかな?ってずっと考えているんだ。」


「…ぅ…ぅ。」



突然の僕からの告白によって、

シェリルが言葉を詰まらせている。



そんなシェリルの仕種から、

栗原さんの推測が正しかったんだと分かった気がした。



「ねえ、シェリル。」


「だから、何よ…っ?」


「今までありがとう。」


「はっ?何よ、急にお礼なんて…」



…どうしてかな?



「自分でも良く分からないけど。ちゃんと伝えないといけない気がしたんだ。」



…だから、シェリル。



「今までありがとう。」



今日という日までの全ての出来事に感謝してから。



…僕は。



「僕は唯王女を選ぶよ。」



シェリルとの別れを決断したんだ。


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